研究課題/領域番号 |
16K17029
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
コツィオール ガブリエーレ 京都大学, 法学研究科, 准教授 (10725302)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 信託 / 物権と債権の関係 / 価値追跡 |
研究実績の概要 |
本研究は、①信託の利害関係人の諸利益の具体的内実、②それらの調整の望ましいあり方およびそれにとっての物権法・債権法の二分法の適切性、の2点を解明することを目指すものである。 平成28年度には、以上のうち①の問題に関する資料の収集・分析を行い、さらに諸利益の調整のありかたをも検討した。その結果、そこで価値追跡説という考え方が1つの手掛かりとなりうることが分かった。これは、同時に②についての出発点ともなる。 価値追跡説によると、ある価値が権利者の下から債務者の財産へ到達した場合において、権利者が当該価値の返還ないしその金銭による補償を目的とする請求権を有するときは、権利者は他の債権者に優先して当該価値から弁済を受ける権利を有する。本来であれば債権しか有しないはずの権利者に、優先的権利が認められるわけである。そこでは、債務者、債務者のその他の債権者および第三者の利益を衡量する必要がある。その際まず重要なのは、権利者の要保護性であり、つまり権利者が自らの意思で担保を要求することなく、価値を債務者の責任財産に付与したのではないことである。さらに、債務者につき倒産手続が開始した場合および価値が債務者の責任財産中に現存する場合に限り、また債務者の責任財産についての第三者の信頼が害されない限りにおいて、価値追跡権は認められうる。もっとも、信託においては単なる優先弁済ではなく信託財産自体の受託者の責任財産からの切離しが認められるのだから、これを以上の価値追跡だけによって基礎づけることはできず、さらなる考察を要する。以上の成果は、論文の形で公表することができた。 また、夏にはドイツおよびオーストリアに渡航し、フランクフルト大学やウィーン大学の研究者らと本研究課題に関する意見交換を行った。そこで得た示唆は、上述の論文をまとめるに当たって反映することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画どおりに研究を進めることができており、その中間的な成果を論文として公表することもできたので、おおむね順調に進展しているものと思料する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、上述の②の問題に本格的に取り組むこととし、ドイツ・オーストリアにおける関連資料を幅広く収集しながら比較法的考察を深めていくことにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
目当ての海外文献の一部につき刊行が予定よりも遅れたことと、勤務先との関係で海外出張を予定よりも短く抑えたことが、主たる理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
海外文献については刊行され次第発注することとし、また海外での聞き取り調査については、特に公表に向けての作業が本格化するであろう今年度後半に、必要に応じて積極的に行うことにしたい。
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