本研究は、防災・衛生・治安などの観点から、周囲に危険を及ぼしうる状態となっている老朽化建物の取り壊しを私法上正当化するため、所有権の消滅を認める理論およびその基準を明らかにすることを目的とする。平成29年度は、3カ年計画の最終年度にあたり、第3段階として、所有権の消滅を認める理論およびその基準を明らかにすることを試みた。 第1に、空き家問題について、一戸建てを取り壊すことのできる私法上の正当化根拠として、事務管理に基づくことが考えられる。周囲に危険を及ぼしうる状態となっている老朽化建物を取り壊すことは、一見、所有権の消滅となり許されないかのように見えるが、不在を消滅させることは本人の利益となると考えられる。それゆえ、事務管理による正当化が可能である。 第2に、マンション解消制度については、これと同じく、所有権の消滅という結論をもたらす建替え制度と同様に、集会における区分所有者および議決権の各5分の4以上の賛成により、マンションの解消(敷地売却)ができるように立法を行うべきである。決議にあたっては、(1)敷地売却を必要とする理由、(2)建替え等の場合における当該建物の効用の維持又は回復をするのに要する費用の額及びその内訳、などが示されなければならない。 第3に、所有権の消滅を認める理論について、客観的に建物であっても、その利用価値がない場合には、建物所有権を否定し、第三者による解体等を肯定すべきである。
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