本研究は、民法772条に規定されている嫡出推定制度を素材として、民法(親子関係法)が血縁といかなる関係性を構築するかを明らかにすることを主眼としている。 親子関係の定立をめぐる問題は、自明のようでとても難しい問題である。本研究が対象とする嫡出推定制度は、婚姻中の妻が懐胎・出生した子について、夫の子と推定する制度であり、父子関係の定立において重要な役割を果たす。嫡出推定制度を規定する民法772条は、民法制定時のままその条文が維持されてきた。しかし、現在では、DNA鑑定や生殖補助医療等の科学の進歩により、制度の根幹が揺らいでいる。例えば、DNA鑑定により、血縁の有無を解明することが可能となった。生殖補助医療により、卵子・精子・受精卵の由来は明らかになる。つまり、科学の進歩は親子関係における血縁の不存在を顕在化させた。では、親子関係の定立において、血縁の不存在という事実をどのように評価するのか。さらに、近時のいわゆる300日問題においては、当事者たちの願い―血縁が存在するところに親子関係の定立を直接的に認めてほしい―がある。つまり、嫡出推定制度は血縁指向により揺らいでいるといえる。 したがって、本研究は、親子関係の定立における血縁の評価を軸に、親子関係法における法の伝統的対応と新たな対応との調整を検討するものである。法制審議会において嫡出推定制度の見直しの議論が開始されたことからも、嫡出推定制度の役割を考察することは、現代の親子関係法において重要な意義を有する。
|