本研究は、スリランカの高速道路事業における用地取得・住民移転を題材に、市民の負担受容に関する調査と分析を行うものである。具体的には、(a)移転住民の認識の変化と、それに影響を与える社会的要因を明らかにするとともに、(b)地理情報やフィールド実験を取り入れた調査を実施し、事業や負担に対する認識の決定要因についての考察を行う。 本年度は、昨年度のフィールド調査によって明らかとなった、過去の事業における他者の移転の経験が、これから移転する住民の事業や移転に対する認識の変化が一部の住民にもたらされ、そうした変化や他者の経験が有用だと答える傾向は、経済水準の低い層において特にみられることを日本行政学会年次総会にて報告するとともに、そこでの議論の内容も踏まえて英文学術誌に投稿を行った(本報告時点で修正・再投稿のステータスである)。 また、アジア開発銀行本店にて社会セーフガード政策に関する意見交換等を行い、高速道路その他の社会基盤の社会的影響や、その正の効果を高め、負の効果を減じるための政府の資源の重要性を認識するに至った。特に、高速道路以外の社会基盤であるが、エネルギー分野について、マイクロファイナンス等のコミュニティや民間企業と協力したバングラデシュの官民連携の在り方が成功事例として注目されたことからその情報収集を行うことができた。 以上のように、本年度は研究計画にも記載した、スリランカ以外の南アジア地域や他政策との比較、政府の資源流動(特に人的資源)への着目といった新たな研究の発展可能性を見出した年度となった。こうしたことから、基盤研究(C)に最終年度前年度応募をさせていただき採択されたため、当該研究計画にて、本研究を発展的に引き継ぐ予定である。 本年度に予定していたフィールド調査は、現地の事情もあり見送っているが、次年度は新規の計画に従って、これまでと同様継続的に実施する予定である。
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