研究課題/領域番号 |
16K17047
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮地 隆廣 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (80580745)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 税制改革 / 南米諸国 / 社会運動 |
研究実績の概要 |
税制改革の成否における社会運動の関連に関するデータセットの準備を進めた。当初の研究計画通り、南米スペイン語圏9カ国(ベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビア、チリ、ウルグアイ、パラグアイ、アルゼンチン)において、2000年以後に提出された直接税に関わる法案について、法案の採否を被説明変数としつつ、政党の勢力状況(大統領の所属政党、議員の政党別構成)、法案の内容、抗議行動の状況(規模や日数)などについて、新聞資料や先行研究などをもとにデータを整備し、その一部が完成した。 完成が一部にとどまったのは、【現在までの進捗状況】にて説明する通り、当初予定していた以上に法案数が多かったことが原因である。エクアドルの事例については、制定過程に国民投票が実施されたことに着目し、それに関連する学会発表と査読付き論文を1点ずつ発表できた。 これまでに整備された部分的なデータを用いて何らかの分析を行い、研究成果を発表することは行っていない。これについては、やはり【現在までの進捗状況】にて説明する通り、リサーチデザインに瑕疵があったことが原因である。社会運動が税制改革の成否に与える影響を、法案成立の是非という観点だけで評価をすることは、社会運動の影響力を過小評価する恐れがある。具体的には、運動が影響を与える2つのタイプの事例が評価されない。第一に、運動によって法案が廃止された事例が研究対象から除外されている。第二に、運動によって法案の内容が修正された後にその法案が通過した場合に、その法案は「反対なく通過した」ものとして、社会運動が阻止できなかった法案として扱われることになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
【研究実績の概要】で示した通り、分析の材料となるデータの準備はある程度できてはいるが、それは完全ではなく、またそのデータをもとにした分析結果の発表も行われていない。その理由は次の通りである。 第一に、研究当初に予想していた法案数は実際よりも相当に少ないものであった。具体的には、先行研究に依拠して、法案数を40程度と見積もっていたが、実際に調査すると、改革の規模の大小を問わずに全てカウントするならば、3倍を超える法案が出されていた。すべてのケースを網羅することが分析上重要であるが、このままデータセットの準備を続けると、分析と研究成果の発表を研究期間内に完了させることが困難であることも明らかになった。 第二に、法案通過の有無で社会運動の影響を測ることにはセレクションバイアスが避けられないことが分かり、分析を進めることができなかった。法案準備状況がマスコミなどに報じられると、法案提出以前より運動が発生することがある。これにより、法案の内容が変更されたり、あるいは法案提出が見送られたりすることもある。これは、社会運動の影響は法案成立以前から検討する必要があることを意味するものであり、提出された法案だけを分析の対象とすると、社会運動の影響が過小評価されてしまう。なぜなら、法案が運動の影響なく通過した場合、運動の影響はないという判断が下されるが、運動の圧力によって法案が変更されているなら、運動の影響力はあったと判断すべきことになるからである。また、運動によって法案提出が見送られた事例もまた、データセットからは除外されてしまうからである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討結果からは、「直接税に関する法案の通過」という被説明変数の設定を修正する必要があることが見えてきた。具体的には、2つの修正が必要である。第一に、所得税、固定資産税、法人税など直接税が含み得る様々なタイプの税のうち、その一部だけに対象を絞る必要がある。第二に、各事例を観察する上でのタイムスパンを長くする必要がある。法案が提出されてから後の動きを見るのではなく、法案提出以前からの動向を踏まえる必要がある。 残された研究期間を考慮し、今後は直接税の中でも固定資産税の改正にまつわる2ないし3の事例に絞る予定である。固定資産税に限定する理由は、本研究が計画当初より、エクアドルの固定資産税改革に注目してきたことによる。一院制議会で過半数をおさえている革新系政党が提案し、2016年末に法案は成立した。ところが、法案成立の過程で街頭での抗議行動が発生するなど反発は大きかった。昨年より発足したモレノ政権は、前政権と同じ政党にあるが、この法案を廃止するか否かを問う国民投票を実施し、国民の意見を問い直した。結果は廃止賛成が過半数を占め、現在では議会での法案廃止決議に向けた準備が進められている。 固定資産税の改革については、隣国のコロンビアや、南米諸国という条件を外れるが同じスペイン語圏ラテンアメリカ諸国の1つであるメキシコで近年大きな改革が見られた。既に一定程度情報の蓄積があるエクアドルと比較できるよう、法案提出の経緯から現在に至るまでのクロノロジーを準備する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定であれば、完成したデータセットを踏まえた現地調査がなされる予定であったが、データセットの準備が完成しない上に、リサーチデザインの再検討を迫られたために、現地調査を最低でも2国で行うところが、エクアドル1国のみにとどまった。この結果、費用の半分弱に相当する研究費が生じた。この作業は来年度に持ち越され、現地調査の費用に充てられる予定である。
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