前年度までの研究を踏まえ、ラテンアメリカの徴税能力に関する1990年から2016年までのデータセットを整備し、その決定要因に関する計量分析を行った。 先行研究では徴税額・GDP比率を徴税能力と見なすが、これではその徴税水準が徴税能力の限界によるのか、それとも徴税能力を政治的裁量で発揮しなかった(例えば市場経済を活性化させる目的で減税した)ことによるのかの区別がつかない。そこで、ラテンアメリカ諸国が一般に行政執行の能力を欠く開発途上国であることに着目し、「先進国クラブ」とされるOECD加盟国で徴税水準が一番低い国の水準に及ばないことを徴税能力の欠如と定義した。そして、観察された徴税額・GDP比率をこの最低水準で打ち切りにしたものを被説明変数として、その決定要因を分析した。 分析の結果、先行研究が指摘してきた効果(対外債務は徴税能力を損ねる、革新政権は徴税水準を高めるなど)は有意でないか、有意であったとしても効果が極めて小さいことが明らかになった。また、時代が進むにつれ、ラテンアメリカ諸国が全体的に徴税能力を着実に高めている傾向も明らかになった。これは各国の個別要因ではない、時代がもたらす効果であることから、ラテンアメリカ諸国が共有している何らかの経験が存在していることを示唆する。この成果はラテンアメリカ政治学会 (ALACIP) にて昨年8月に発表された。 この共通経験として有力と思われるのが、徴税に関する行政上の制度や技術の革新が進み、各国に共有されていることである。データセットが扱う1990年代はラテンアメリカ諸国で行政の専門化が始まった時期として知られるが、徴税も同様である可能性が予想され、学会での発表後、この点に関する文献および現地調査を行った。論文の投稿を年度内に行うことはできなかったが、さらなる事例研究を進め、発表する予定である。
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