本研究は日本国内人権機関がなぜ未だに存在しない原因を探った。国会で提出された国内人権機関の設置に関する三つの法律案に注目し、国会議事録、メディア報告、国連資料を基にその一つ一つがなぜ廃案になったかを分析した。その分析から浮かび上がったことは法務省の国内人権機関設置への抵抗である。2002年と2012年の法律案が廃案されたのは法務省による法律案作成への干渉・インプットのせいであるとまではいえないだろう。しかし、法務省が国内人権擁護状況を単独でコントロールする自らの立場を明らかに失いたくないように動いてきた。そのことは2002・2012年の法律案に提案された国内人権機関が法務省の管轄下に置かれていたことから伺える。もちろん、立法となると政治家は官僚の望む通りにしなくてもいいのだが、国会で国内人権機関を巡ってこれだけ分裂・批判・反対が多かったことは法務省にとっては都合のいいことだと考えられる。国内人権機関の存在しないという現状維持によって法務省の人権擁護状況の単独支配が続けるからである。 政治過程政策における国内人権機関設置へのハードルがその他にもいくつか明らかになった。「人権侵略」解釈の問題、報道や取材の自由の問題等が存在している。しかし、それらだけでは日本のケースを理解しきれないところがある。やはり110もの国々が(少なくとも2015年時点で)同じ問題を克服し、国内人権機関設置に成功しているのである。そうならば、日本にも国内人権機関の設置が可能なはずである。 結論として、今後、国内人権機関が設置されるかどうかは法務省次第であるといえる。何十年も外圧・内圧に耐えて国内人権機関導入というアイデアに抵抗してきた法務省が一体立場を変えるであろうか。
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