地方政治における民主主義の程度の多様性や変化は、国政にどのような影響を与えるのであろうか。新興民主主義国の地方への権威主義の残存を扱う「サブナショナル権威主義」研究はその測定方法や維持・変化のメカニズムを中心に展開されており、権威主義的な地方の存在が各国の民主制度に与える影響を明らかにしていない。そこで、連邦制を採るアルゼンチンとブラジルの上院議員の委員会と本会議での行動を分析し、彼らの選出された州の民主主義の程度が立法過程の各段階での議員行動に与える影響を明らかにする。 最終年度の2019年度は、データ収集作業を前年度に引き続き行うと同時に現地でのインタビュー調査を行い、最終成果の一部をアメリカ中西部政治学会(MPSA)で発表した(学会発表リストには昨年度分として記載)。また、昨年度公刊した単著の紹介発表をアルゼンチン政治分析学会(SAAP)で発表し、ブラジルにおける大統領・議会関係を解説する論考を『ラテンアメリカ・レポート』に掲載した。 これらの研究活動を通じ、州知事の地方選挙における優越性がアルゼンチン・ブラジル両国の上院議員の行動に異なる影響を与えていることが明らかになった。すなわち、アルゼンチンでは再選経験のある州知事の子飼いのアルゼンチン上院議員はより多くの大統領提出法案を時間切れ廃案に追い込もうとするが、本会議においては彼らの活発な行動は見られない。一方、ブラジルでは州知事の上院議員に対する影響力は、委員会よりも本会議でより顕著に見られるのである。 それでは、なぜこのような差異が見られるのであろうか。仮説の一つとして考えられるのは、両国における立法過程の特徴の違い(委員会における議題設定が分権的なアルゼンチンと集権的なブラジル)である。今後は各国の立法過程の特徴の違いが議員行動に与える影響について、より多くの国の事例を考慮しつつ分析をさらに深めていきたい。
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