新型コロナ禍で米中の対立が新型コロナ対応にも及ぶ中で、保健ガバナンス改革やワクチンの公平アクセスといった目下の課題に、国際秩序がいかなる影響を及ぼしているのか、課題を前進させるためにはどのような努力が求められるのかを主に検討した。 対立を常とする国際社会において、感染症や食料をめぐる協力なら互いにウィンウィンになれるので、協力できるのではないか。歴史的なこのような期待が機能的協力には向けられてきた。しかし、グローバル化の進展に伴い、機能的協力と政治的領域を隔てることは難しくなった。とりわけ感染症に関しては、その影響が経済、社会を含む広範囲に及ぶからこそ、政治との境界線が曖昧になってしまう。実際、新型コロナを巡ってはアメリカのリーダーシップは愚か、米中の対立が対応をめぐる協力そのものを困難にしてきた。感染症への対応が公衆衛生の一課題としてみなされていた時代は終わった。グローバル化の影響で、一旦どこかで感染が始まり、適切に封じ込められなければ、瞬く間に世界に広がり、我々の健康のみならず、経済や社会に大きな打撃を与える。だからこそ、その備えや対応は公衆衛生という一分野を超えた包括的で政治的なものにならざるを得ないし、他の争点領域での火種が容易に感染症対応に持ち込まれる危険性も秘めている。実際、バイデン大統領の下でWHO脱退は回避されたものの、米中はインドへの支援を巡りあるいは発生源調査をめぐり、対立を継続している。価値の違い、貿易や技術覇権をめぐる対立が容易に感染症対応に影響を与える時代なのである。 米中対立が継続する中では欧州や日本などミドルパワーの役割が重要であると考え、そういった国々の具体的な役割を検討した。またグローバルなレベル、地域レベル、国レベル、複数のレベルで感染症対応枠組みを見直し、相互に補い合うような体制を目指していく必要があると考え、各レベルの課題を検討した。
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