研究課題/領域番号 |
16K17078
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田村 彌 名古屋大学, 経済学研究科, 講師 (60711950)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 制度設計 / 情報開示 / 情報摩擦 / 戦略 / 広告 |
研究実績の概要 |
情報環境の制度設計について、平成28年度は主に他のインセンティブ設計手段との相互作用に関する分析(課題2)に取り組んだ。具体的には、グラフ理論を応用した組織内の情報共有設計の理論分析を進め、主要な結果の頑健性や組織を構成する主体間の利害対立の影響などを詳細に調べた。既存の研究にはないシンプルな情報集計・開示ルールが最適であることが示されており、特に比較静学による分析が可能になった点が理論の応用可能性という観点から意義が大きい。また金融政策と中央銀行による情報開示の相互作用について分析した論文(題名:Endogenous Information and Central Bank Transparency)を大幅に改訂し、最適な情報開示ルールにおけるウェイト付けの方法について数値例に基づく新たな分析を取り入れ、市場期待の操作性と金融政策の自由度の間のトレードオフに関する議論を追加した。これらの成果を元に論文の改訂作業および投稿準備を行っている段階にある。もうひとつの研究テーマとして申請書に記載した情報伝達の過程に摩擦が存在することを考慮に入れた最適情報設計(課題1)については,モデルの構想に時間を費やした。当初の計画に従い動学的視点に基づく広告戦略を具体例に、内生的な情報取得行動モデルと間接的な情報伝達モデルの2タイプの情報摩擦を検討した。まず情報摩擦がない場合には複数の期間にわたって逐次的に情報を開示するインセンティブがない単純な2期間モデルの設定をベンチマークとして、それぞれのタイプの情報摩擦を取り入れたモデルの構築に取り組んだ。消費者の期待形成および消費行動の設定や広告企業の目的関数などモデルの細部を特定化した上で均衡分析を行っている段階にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記課題2については,論文完成の手前まで進んでおりおおむね順調であるといえる。一方,課題1については,単純な例を用いた分析にとどまっており、当初の計画より若干の遅れが生じている。既存の情報摩擦のモデルでは特定のシグナル構造を前提としており,自由度の大きい情報設計を議論するには理論的な拡張が必要になる。この点が当初の想定より困難な問題であることが判明したため分析に時間を要している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は上記課題1について情報摩擦のモデル構築を中心に進める予定である。まず自由度を限定した情報設計の下でモデル分析を進め、年度末を目標に論文の執筆作業に移行する。同時に理論的な拡張として重要と考えられる「自由度の大きい情報設計」のモデル構築および均衡分析に引き続き取り組む。
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