研究実績の概要 |
情報環境の制度設計について、平成29年度は主に応用分野への発展に取り組んだ。具体的には、金融政策と中央銀行による情報開示の相互作用を分析した論文(題名:Information Design, Signaling, and Central Bank Transparency)の改訂作業と投稿を行い、マクロ経済や金融政策の分野で定評のあるInternational Journal of Central Banking誌に採択(2018年12月に掲載予定)を受けた。 この論文は、多次元のマクロショックの情報を複数の統計指標に集約して公開することが最適であり、金融政策の有効性と市場期待の操作性の間のトレードオフによって統計指標のウェイトが決まることなど既存研究にはない斬新な結果を発表している。 別の応用研究として、寡占競争におけるプライスリーダーシップと情報優位性の相互作用について情報設計のアプローチに基づいて分析に取り組んだ。価格先導者(プライスリーダー)の私的情報が価格設定を通じて価格追随者(プライスフォロワー)に伝わる状況において、最適な部分開示の方法を特徴づけた。この研究内容の一部は論文Bayesian Persuasion with Quadratic Preferencesの一節として組み込み、論文をSSRN Working Paperとして公開した。 もう一つの研究テーマとして設定した動学的な環境における情報制度設計について、昨年度までは情報の受け手側に生じる情報摩擦に注目した分析を行ったが、今年度は情報の送り手(制度設計者)の利用可能な情報に注目した研究に取り組んだ。具体的には、過去の社会経済の状況に関するデータを集計して公開するという状況を考え、動学的な環境固有の問題を整理した。現在は単純なモデルの構築に取り組んでいる段階にある。
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