2020年度は以下の2点について追加的な研究成果を得た。 課題1(動学的環境における情報設計の分析)に関して、政策プログラムの実施と評価を段階的に実施する理論モデルのシミュレーションを進めた。前年度は実験参加に対する報酬をパラメータとして実験規模の拡大によって生じるベネフィットとコストを比較検討したが、今年度は分布の仮定を満たさない場合にどの程度推定結果にバイアスが生じるのか検討を行った。シミュレーションの結果、バイアスの程度は分布の形状および分布パラメータに大きく依存することが明らかになった。一部、理論的な特徴づけが不十分であったため学術誌への投稿に至らなかった。 課題2(他のインセンティブ設計手段との相互作用の分析)に関して、組織内の望ましい情報共有の方法について最適情報設計の枠組みを用いて理論的に検討した論文の改訂作業に取り組んだ。具体的には、組織内で共有する情報のコントロールに加えてインセンティブの導入によって最適情報の特性がどのように変化するかを調べた。ある仮定のもとでインセンティブの導入を通じた利害対立の解消と情報提供にある種の補完性があることが明らかになったが、結果の頑健性に対する検討が不十分なため完成に至らなかった。 研究期間全体では、3件の査読付き国際学術誌に研究を発表した。いずれも課題2に関連する研究テーマであり、近年注目を集めている情報設計理論において新規性のある拡張を行い一定の貢献をすることができたと考えられる。
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