第一に平成29年度から継続している「信念の異質性と内的動機づけの相互連関」についての研究を進めた.契約理論の分野では大きく分けて,労働者の努力レベルを0あるいは1の二項変数とするモデルと連続的な実数変数とするモデルの2つの流儀がある.これまで得たフィードバックの中に「本研究の含意は前者の流儀でモデル化していることに依存しているのではないか」という疑問があったので,そのような懸念に対する応答として連続モデルにおいても質的な結論は変わらないことを示した.また,最適契約の比較静学分析を行い,特に最適な金銭的誘因の度合いが [1] 意思決定事項と努力の間の補完性の度合い,および [2] 労働者の信念の強さの減少関数となることを示した.これらの結果を第3回Asia-Pacific Industrial Organization Conferenceで報告した.
第二に「頑健な不満に対して安定なマッチング」についての研究を行った.上記の研究を発展させる上では労働者が複数いる状況について考えることが不可欠であるが,そのような場合どのように労働者を組織するかという問題が生じる.組織化の一つの方法は複数の労働者をマッチングしてチームを構成することだが,その際,構成員が割り当てに不満を持たないという意味での安定性が求められ,どのようなマッチングがより安定かは各構成員が他人の行動様式に対してもつ信念に依存する.本研究では「いかなる信念を持っていても必ず生じる不満」を頑健な不満として定義し,そのような不満が生じないマッチングを構成するアルゴリズムを示した.この結果を第14回Society for Social Choice and Welfare学会および第10回Lisbon Meetings in Game Theory and its Applicationsで報告した.
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