本研究では、交渉問題を非協力ゲーム理論の枠組みで分析している。 外部の主体が提案者となり、提案内容の利得組がランダムに定まるようなモデルにおいては、提案を留保できない場合について分析を進めている。このモデルにおいては、利得組の確率分布の性質によって結果が異なるが、非常に弱い仮定の下で定性的に統一された性質がみたされることがわかってきた。例えば、連続で正の値をとる確率密度関数が存在し、そのサポートがなめらかな境界をもつならば、提案頻度が高くなる極限において、合意までに要する時間は一定である。このような考察は提案を留保できない場合の分析にも有益であると考えられる。例えば、提案を留保できる場合は、同じ戦略を用いても留保できない場合に比べて高い利得を得られるので、留保できない場合の利得を分析することによって、均衡利得の下限を議論することができる。今後は、収束先が存在するための条件など、どの程度広い範囲で結果が成り立つのかを詳細に分析している必要がある。 交渉参加者のうちで提案者が各期ランダムが選ばれるような提案応答モデルについては、一般に、定常均衡において均衡利得の一意性が成り立たない場合があることがわかった。ただし、一定の仮定の下で、人数が3名以下の場合は一意性が成り立つこともわかった。すなわち、4名以上の場合が問題となる。一意性が成り立たない場合の特性関数には様々なものが考えられるが、コアの内部が非空であるようなものも存在し、一意性が成り立たない場合が特殊でないことを示唆していると考えられる。
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