研究課題/領域番号 |
16K17087
|
研究機関 | 高崎経済大学 |
研究代表者 |
安達 剛 高崎経済大学, 経済学部, 准教授 (00535122)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 遂行理論 / ナッシュ遂行 / 正直なエージェント / セキュア遂行 / 展開型メカニズム |
研究実績の概要 |
行動経済学な視点を取り入れた理論として近年注目されている「正直な主体によるナッシュ遂行」の理論についての再検討を行った。本研究では任意の「正直さの許容範囲」の下で、それに対応するナッシュ遂行のための必要条件と十分条件を明らかにしている。これによって、正直さを全く好まない標準的ケースから、先行研究における完全な正直さへの選好を持つケースまでを連続的に説明できることになった。この条件は先行研究にあった極端に肯定的な結果が成立しなくなる「正直さの範囲」を明らかにしている。もし各主体が真のタイプから一定の距離ε(>0)以内にある全てのタイプをその真のタイプの許容範囲とみなすなら、その距離ϵがどんなに小さくても、結果は正直さを全く好まない標準的ケースと同じになる。つまり、許容範囲が僅かでも厚みを持つならば、正直さを活用した遂行は有効性を完全に失ってしまう。これは、先行研究の肯定的な結果を得るためには非常に強い正直さが必要であったことを意味している。 また、展開型メカニズムを用いたセキュア遂行についても十分条件と、それを可能にするメカニズムを明らかにした。具体的には、展開型メカニズムを用いた遂行の十分条件は、ルールが耐戦略性と非介入性(non-bossy)を満たすことである。また、実際に遂行を可能にするメカニズムとしては、展開型メカニズムの既存研究に比べて極めて単純な「各主体が一人ずつ順番に自身のタイプを表明するだけ」というメカニズムで良いことが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「正直な主体によるナッシュ遂行」の理論については、Dutta & Sen(2012)が主体が(行動の結果ではなく)正直な行動自体を僅かでも好む性質を持つならば、ほとんどのルールが遂行可能であることを示している。しかし、人々が正直な行動に十分小さな選好を持つことはごく自然であり、ほぼ全てのルールが遂行できるという結論は、情報の非対称性による問題が多数ある現実の世界と矛盾するように思われる。そこで本研究では正直さに「許容範囲」を導入することを考える。すなわち、主体が例え正直さに選好を持つとしても、嘘が真のタイプに十分に近いならば、主体はその嘘を「本質的に正直な行動と変わらない」として見逃す、とするのである。この「許容範囲」の存在が、その広さに応じて「正直な主体によるナッシュ遂行」の理論にどのような影響を与えるかを分析する。 展開型メカニズムを用いたセキュア遂行については、耐戦略性と非介入性(non-bossy)の性質については多くの先行研究があり、それによってrectangular propertyよりも明確に弱い条件であることが分かっている(例えばマッチング問題ではTTCルールがこれらの条件を満たすルールとして有名である*)。また、単純なメカニズムで良いということが分かったことは実際の制度の導入時におけるコスト削減につながり、いわゆる顕示原理の展開型メカニズム版に相当する興味深い結果といえる。
|
今後の研究の推進方策 |
「正直な主体によるナッシュ遂行」の理論については、まず上記の結果を論文にまとめる作業を進める。また、それと並行して、肯定的な結果を維持できる現実的な正直さの許容範囲について、より詳細な研究を進める計画である。確かに許容範囲に全く厚みがないというのは厳しい条件であるものの、例えばある嘘のタイプが本来の状況であれば主体にとって不利なものであった、という場合であれば、その嘘がどんなに真のタイプに近くても主体はその嘘を避けるであろうと考えられる。このような現実的な許容範囲の下で遂行可能なルールを考えることで、正直さを活用した遂行の真の有効性を明らかにすることができると考えている。 セキュア遂行の今後の計画としては、上記の耐戦略性と非介入性という2つの条件が、展開型のセキュア遂行にとって十分条件だけでなく必要条件でもあることの証明を目指す。これらは通常の部分ゲーム完全遂行の意味では必要条件にはならないが、応募者は(過去に研究したロバスト遂行の証明方法を応用することで)より自然な有界メカニズムに環境を限定した場合、必要条件になる、という証明のアイデアを得ており、現在検討を進めている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究進行の時期の都合により、当該年度参加予定であった国際カンファレンス(The 10th Conference on Economic Design)への参加を取りやめ、次年度の国際カンファレンス(The 14th Meeting of the Society for Social Choice and Welfare、応募済み)で報告することとした。
|