本年度は熟議を通じた社会選択におけるメカニズムデザインについての研究を行った。熟議は、社会選択のパラドックスを解決する方法の1つとして政治哲学において注目されており、近年は実践例も多い。熟議を通じた社会選択においては、集まった人々が最初に熟議に参加し、その後、投票などの社会選択のための手続きに参加する、という段階的な社会選択のプロセスが想定される。本研究は、人々が第1段階において熟議に参加した結果自身の意見を更新し、それを第2段階の手続きで表明した場合、社会選択がその熟議を通じた意見の更新に対して逆行するような反応をするべきではない、という条件を第2段階の社会選択ルールに課すことを検討した。 研究の成果として、この条件は普遍的選好ドメインの下でも必ずしも独裁者の必要性を含意せず、耐戦略性よりも弱い条件であることが示された。また、第2段階ではなく第1段階の選好に対して単峰型のドメイン制限をする場合、第2段階の社会選択ルールのドメインは必ずしも単峰性を含意せず中位投票者ルールが利用できないものの、第1段階に2分法型の選好ドメイン制限をした場合、(やはり第2段階のドメインが2分法型になるとは限らないものの)承認投票を拡張した形で定義されるボルダルールがこの条件を満たすことが明らかになった。これは通常、耐戦略性のような選好の変化についての条件に弱いとされているボルダルールが、熟議を通じた社会選択においては有効な投票手続きになりうることを示している。
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