平成30年度は、過去2年間の研究をもとに、市場設計への応用可能性を検討することに主眼が置かれた。市場設計の仕事は、与えられた「基準」を満たすような資源配分ルールが存在するのかを検討し、存在するのであればルールの具体的な関数型を求めることにある。ここでいう「基準」とは、設定した環境を表すための物理的な制約条件や、市場の望ましさを表した性質のことである。マッチング市場の設計問題に限らず、経済学上の様々な市場設計問題において、与えられた複数の基準を同時に満たすことができないことを示す、いわゆる「不可能性定理」が示されてきた。 近年のマッチング理論の発展に伴い、現実でも非常に多くのマッチング市場が世界中で整備されてきたが、古典的なマッチング理論の研究に、そうした現実の市場で見られる制約条件を加えた結果、古典的な研究では「可能性定理」であったものが、「不可能」になってしまうことが示されることが増えている。すなわち、妥当だと考えられる複数の基準が同時に満たされないということが、現実のマッチング市場で起きている。 複数の基準が同時に満たされないとき、少なくともそのうちの1つの基準については何らかの妥協をして、配分ルールに対する要請を弱める必要がある。しかし、どのように「妥協」をすべきだろうか?マッチング市場の研究においては、多くの研究者が「妥協」を提示し、それによって弱められた要請を満たす資源配分ルールが存在するか否かが検討されてきた。しかし、それらのうちには、経済学的な意味よりも、存在を示すための技術的な意味合いが強いように思われるものも少なくない。少なくとも、どのような「妥協」の仕方が妥当なのかは議論されてこなかったように思える。そこで本研究では、過去の研究から妥当と思われる2つの汎用性のある「妥協」の方法について、それらの一般的な性質の解明を試みた。
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