2018年度は,昨年実施した実験から,情報のフィードバックを利用して相手の将来行動を操作しようとする動機を発見した.この研究成果は,実証手法を用いた経済分析などを対象とする海外ジャーナルの「Applied Economics」において公刊された.
この研究について詳しく解説する.協力インセンティブがない公共財供給状況においては,ラウンドを繰り返すたびに均衡(非協力)へ近づく一方で,ある程度の協力が観察されてきた.この協力については,利他性,混乱,条件付協力,戦略的動機などいくつもの動機が提案されてきたが,これまでに一致する結果を得たわけではなかった.特に興味深いのは,相手が毎回異なる繰り返し環境(Strangers条件)であったとしても,無条件協力行動(相手がフリーライドするとわかっているのに協力する行動)を観察している点である.そこで,本研究では,被験者の行動動機を直接聞き出すcoding method と呼ばれる新しい手法を用いて,この無条件協力動機について明らかにする実験を実施した.その結果,公共財への貢献額は,条件付協力行動と無条件協力行動で全体のおよそ8割程度を占めており,無条件付協力の動機は,教育的動機(短期的には損してでも,自分の行動を通じて相手に協力を選ぶ者がいることを教え,長期的には協力する者を増やす動機)であることがわかった.言い換えれば,フィードバック情報を用いて,相手の行動を自分達にとって都合のよい環境へと操作しようとする間接的な戦略動機であると言える.
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