2019年度は単独研究と共同研究の2つの成果が国際コンファレンスで発表され、討論の結果を踏まえて2本の研究論文とも海外の査読付き学術誌に投稿された。いずれの研究成果も、古典派経済学研究だけでなく現代の主流派・非主流派経済学に対しても新しい見解をたらすものであると考えられる。 単独研究では、リカード・モデルがジェームズ・ミル、ジェームズ・ペニントン、ジョン・ステュアート・ミルミル、そしてトレンズによって創造され、その完成に際してトレンズによる抽象的理論の採用が大きな役割を果たしていたことが示された。本研究はまた、貿易利益にかかわるリカード理論の先駆性についてのトレンズの要求が、スラッファにリカードの「4つの魔法の数字」の本当の意味を気づかせることに貢献した可能性を指摘した。またRogerio Arthmar教授(ブラジル Universidade Federal do Espirito Santo)との共同研究では、トレンズの理論的手法を軍事教育と関連づけることから出発して、彼の価格理論の特質(相対価格と均等利潤率の同時決定にかんするスラッファ理論との類似性)を明らかにし、代表作『富の生産にかんする試論』(1821年)で展開された不均衡生産の累積による一般的停滞論により明快な説明を与えた。ここではトレンズが一般的過剰供給論争で固有の貢献をなしたことが指摘された。
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