研究課題/領域番号 |
16K17096
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
山本 慎平 大阪市立大学, 大学院経済学研究科, 特任助教 (40771431)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 新自由主義 / ニューリベラリズム / 鶴見祐輔 / 人格 |
研究実績の概要 |
平成28年度の研究成果については、オーストラリアのメルボルンで行われた29th History of Economic Thought Society of Australia ConferenceにおいてNew Liberalism in Interwar Japan: A Study of the Magazine The New Liberalism, 1931-1933と題する報告を行った。この発表成果を踏まえて、英語論文New Liberalism in Interwar Japan: A Study of the Magazine The New Liberalism(War in the History of Economic Thought: Economists and the questions of war所収)としてまとめ、2017年度に刊行予定である。 これまで入手した雑誌の分析によって、報告者は新自由主義協会の運動の特徴を提示した。それは次の三つである。(1)日本の新自由主義は人格の発展に寄与する限りで社会政策を認めた。マルクス主義と国家主義に対して中庸の立場を取り、寛容を重視した。(2)雑誌は、教育、婦人参政権、経済問題などを重点的に取り扱っている。(3)座談会や研究会を開き、新自由主義協会の綱領を作ろうと努力していた。しかし新自由主義としての具体的な政策や理論は提示できなかった。 さらに、雑誌『新自由主義』の執筆者たちが、具体的に西洋のどのような思想家から影響を受けたのか、雑誌において紹介されている思想家や理論から特定した。新しく入手した文献も含めて、『新自由主義』の執筆者たちが影響を受けていたのは、J. S. ミルとT. H. グリーンの思想である。新自由主義の代表的思想家であるホブハウスについては、一度だけ言及がある限りである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、学習院女子大学図書館において新しい『新自由主義』を4冊入手することができた。これは、今まで欠落号が多かった雑誌発行期間の前期の号であったため、研究の穴を埋めるのに役立った。ただし、いまだ未入手の号が存在しているので、平成29年度もさらに調査を続ける必要がある。 平成28年度の課題であったイギリスの新自由主義(ニューリベラリズム)がどのように日本の新自由主義協会に影響を与えたかについても、ある程度特定することができた。ただしこれも、未入手の号を手に入れることによって補完していかなくてはならない。 これまでの研究成果は英語論文New Liberalism in Interwar Japan: A Study of the Magazine The New Liberalism(War in the History of Economic Thought: Economists and the questions of war所収予定)としてまとめることができたので一定の結果が出たと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまで雑誌発行期間の前期については欠落号が多く、十分な研究ができなかった。平成28年度に前期の新しい雑誌4冊を入手したので、それらを利用し前期に発行された雑誌を中心に、これまで十分に検討できていなかった点の分析を行う。 まず、彼らが標語として使用した、自由や人格といった用語の定義を行う。新自由主義協会会則には「本会ハ人格ノ観念及ビ自由ノ思想ヲ鼓吹シ、寛容ノ精神ト中庸ノ徳操トノ普及ニ努メ」と宣言されている。この自由や人格は、欧米の思想から影響を受けたものだが、それらはどのように受容されたのか。特に、西洋では人格の観念は、キリスト教的価値観と密接に結びついている。日本の新自由主義者が、キリスト教をどのようにとらえていたのかについても検討する。 次に、初期の雑誌で論じられている重要なテーマを紹介する。新自由主義者の国内の政治・経済についての態度、対アメリカ、対中国、対ヨーロッパ認識を中心に検討する。
そして平成29年度の中心課題である当時の日本におけるその他の自由主義との比較を行う。ここでは、上田貞次郎が同時期に説いた新自由主義、河合栄治郎の自由主義、石橋湛山の自由主義、福田徳三の経済学などと比較を行う。それとともに、この時期の自由主義者たちが、どのようなネットワークを築いて、お互いの思想や政策を議論したのかについて『新自由主義』以外の雑誌、例えば石橋湛山の『東洋経済新報』などを参照しつつ、明らかにする。福田徳三については現在勤務する大阪市立大学にある福田文庫の資料も利用する。
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