研究課題/領域番号 |
16K17097
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
松山 直樹 兵庫県立大学, 経済学部, 准教授 (80583161)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マーシャル / 数理科学 / トライポス |
研究実績の概要 |
平成28年度における申請者の課題は,学生時代のマーシャルが数理科学トライポス(優等学位試験)に向けてどのような生活を送っていたのかを文献考証を通じて明らかにすることであった.研究の結果,1)1861年から1865年までのケンブリッジ大学セント・ジョーンズ・カレッジにおけるマーシャルの学生生活,2)数理科学トライポス向けの教育カリキュラムや試験問題等,さらに3)マーシャルの指導教員(の候補者)を明らかした.これらの点については,『商大論集』(第68巻第1号)に発表した. 1)マーシャルの学生生活:この論点に関する考察を通じて,マーシャルの学生生活だけでなく,当時のカレッジにおける教育環境の一面もまた明らかにされたと考えている.付随的に,マーシャルの母校であるマーチャント・テイラーズ・スクールとオックスブリッジ等のつながりも明らかにされた. 2)数理科学トライポスへの取り組み:渡英して収集した資料をもとにして,数理科学トライポスの歴史的経緯,1860年代の試験科目と試験問題作成者,トライポス用のテキストなどが明らかにされた.既存の研究とは異なり,学生時代のマーシャルは,純粋数学にも自然諸科学についても学んでいた.とはいえ,マーシャルの受験した1865年の数理科学トライポスの試験問題(完全版)がケンブリッジ大学に用意に入手できるかたちでは残されていないことが明らかになり,次年度以降に課題が残された. 3)マーシャルの指導教員:マーシャルによる数理科学への取り組みを数学史・科学史の観点から理解していくうえで肝要な最初の課題を克服することができたと考えている.マーシャルは,おそらくI. トッドハンターもしくはS. パーキンソンに指導されていた.次年度以降,トッドハンターの教育,そしてパーキンソンの教育に関する資料収集ならびに文献考証をおこなっていく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の目的は,初期マーシャルによる学問的取り組みを数学史や科学史の知見を借りて理解することにある.本研究計画は,平成28年度において1860年代前半のマーシャルについて議論し,続く平成29年度・平成30年度には,平成28年度における研究成果をさらに深めていき,可能ならば,1860年代後半のマーシャルについても議論する予定である.平成28年度における申請者の研究課題は,マーシャルの学生時代(1860年代前半)に焦点を絞って,彼がどのような環境で,いかなる取り組みをおこなったのかについて議論を展開することであった. 「研究実績の内容」に記したとおり,申請者はケンブリッジ大学において必要な資料を閲覧・収集し,それらの文献考証の成果を論文にまとめて発表した.そして,その研究成果は,次年度以降の研究課題をより明確なものにしたと考えている.この点は,当初の研究計画以上の成果である. しかしながら,新たに生じた研究課題が,これまで他の研究者によって全くと言っていいほど取り組まれてこなかったものであるため,適切な資料が存在しないなどの諸問題も考えられる.次年度以降の研究計画についても綿密な計画を立てたうえで資料の調査と収集をおこなっていく.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度および平成30年度では,科学史ならびに数学史に関する基礎的知識を深めることを前提として,平成28年度に明らかにされたマーシャルの指導教員候補者(トッドハンターおよびパーキンソン)の人物像ならびに彼らの学問体系について資料を収集していく.時間が限られているため,特にマーシャルとの関係が密接であったと考えられるトッドハンターについて重点的に調査研究を展開していく. 尚,現時点において申請者の調べた限りでは,トッドハンターの人物像に関する資料が日本国内に存在しない.そのため,本研究課題に必要な資料や文献をまとめたうえで,英国ケンブリッジ大学附属図書館ならびに同大学セント・ジョーンズ・カレッジにて,資料の閲覧・収集をおこなっていく. 具体的な研究内容に関しては,(1)トッドハンターの人物像の特定,(2)トッドハンターの学問研究の全体像の把握,(3)トッドハンターとケンブリッジ大学セント・ジョーンズ・カレッジにおける数学教育との関係といった三つの課題について議論を展開していく.研究を遂行していくなかで,マーシャルとトッドハンターとの関係が明らかになった時点で,論文にまとめ,国内外の学会や研究会などで研究論文を発表していく. さらに,上記に並行して,国内では1860年代前半のケンブリッジ大学における数学教育の特徴を明らかにするために,大学史,科学史,数学史に関する知識を文献考証を通じて獲得すると共に,それらに関する研究会やセミナー等にも積極的に参加していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は二つある.最も大きな理由は,為替レートの変動により購入予定のフライトチケット(日本とイギリス)の価格が低下したことがあげられるだろう.これは不可避的な要因である.付随的な理由としては,平成28年度に実施したイギリス国内において購入を予定していた資料がデジタル化ないしオンデマンド出版が可能となっており,当初の予定よりも滞在費を節約することができたという点が考えられる.後者の理由もまた,現地に行くことによって初めて明らかになった不可避的な要因であった.
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に生じた次年度使用額については,トッドハンター関連の文書類の購入費用に使用する予定である.また,次年度使用額が生じた理由として指摘されたように,平成29年度は,為替レートの変動によってフライトチケットの価格が予想よりも高くなる可能性が否定できない.その場合には,次年度使用額はフライトチケットの購入費として使用する予定である.
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