研究課題/領域番号 |
16K17097
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
松山 直樹 兵庫県立大学, 経済学部, 准教授 (80583161)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マーシャル / トッドハンター / クールノー / 数理科学 |
研究実績の概要 |
平成29年度における申請者の課題は,本研究課題の研究成果を国内外の研究会等で発表する共に,マーシャルの指導教員と考えられているアイザック・トッドハンターに関する文献考証をおこなうことであった.結果として,1) 二つの研究会等で研究成果を報告し,2) トッドハンターについて重点的に調査をおこなったことで,3) マーシャル経済学と数学の関係について新たな事実を知り得た.付随的に,4) マーシャルの経済思想の継承に関する論文が『経済学史研究』(第59巻第2号)に掲載された. 1) 研究報告:本研究課題の成果の一部である「アルフレッド・マーシャルの学生生活」について,近代経済学史研究会(国内)とJapanese Society in Cambridge(国外)において研究報告ならびに講演をおこなった. 2) トッドハンターについて:文献考証の結果,初期マーシャルに対する自然哲学(数学,物理学,天文学)の影響を検討していく場合にトッドハンターの『確率論史』の理解が重要であることが明らかになった.次年度以降も継続的に同書ならびに関連文献を検討する. 3) マーシャル経済学と数学について:ケンブリッジ大学における資料調査の結果,マーシャルがクールノーの『富の理論の数学的原理に関する研究』(1838年)を所持していたこと,彼がCournot(1838)を1870年代前半に熱心に勉強していたこと,そして,彼がクールノーの需要理論と独占理論以外の側面についても検討していたことが明らかになった.次年度以降にこの論点を論文として発表できるように研究を展開する. 4) 論文の発表:『経済学史研究』に掲載された論文では,マーシャルの経済進歩に関する思想(特に,経済騎士道の普及)がピグー,エッジワース,ケインズにおいてどのように受け止められ,議論されたのかを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の目的は,初期マーシャルによる学問的取り組み(1860年代から1870年代まで)について数学史や科学史の知見を借りてより正確に理解し,マーシャル経済学の自然哲学的基礎を明らかにすることである.それゆえ,本研究課題の計画は,平成28年度にマーシャルの学生時代(1860年代前半)について議論を展開し,平成29年度および平成30年度においては,幅広い資料調査や文献考証を通じて,初期マーシャルによる学問研究を個別的な自然科学の歴史的文脈で捉え直し,その研究成果を国内外の研究会等で研究成果を発表するというものである.平成29年度における申請者の研究課題は,これまでの本研究課題の研究成果を国内外の研究会等で発表する共に,マーシャルの指導教員であると考えられているトッドハンターについて調査研究をおこなうことであった. 「研究実績の内容」に記したとおり,申請者は国内外で(近代経済学史研究会とJapanese Society in Cambridge)で本研究課題の研究成果を広く周知する機会を得ることができた.また,トッドハンターの著作について綿密な検討をおこない,さらにケンブリッジ大学で資料調査をおこなった結果,マーシャルの経済学方法論に関して新たな論点を得ることができた(この研究課題を遂行する過程で,科学史に関するセミナーに複数回参加したことも大きな助力となった).そして付随的にも,マーシャルの経済思想の継承に関する論文を『経済学史研究』に発表することができた. このようにして,平成29年度までの本研究課題は当初の研究計画以上に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,昨年度に継続して数学史,科学史,トッドハンターに関する理解を深めるとともに,マーシャルの経済学方法論に対する自然哲学(数学,物理学,天文学)の影響をより厳密に特定していく. 具体的な研究内容に関しては,(1)18世紀から19世紀におけるフランス科学の状況,(2)クールノーの『富の理論の数学的原理に関する研究』の再考,(3)マーシャルの経済学方法論の形成過程におけるクールノーの影響,の三点について研究を遂行する.上記の個々の研究内容に関して,昨年度までに一定の指針が得られているため,基本的には昨年度までに収集した資料などについて文献考証を継続し,必要に応じて国内外の図書館において資料調査をおこなう.18世紀から19世紀のフランス科学の状況を踏まえてクールノーの経済学研究を再考する作業を終えた時点で,研究成果を論文としてまとめて発表することを目指す. 上記に並行して,英仏独の主要大学における経済学と自然科学の関係について理解を深めるために,科学史や数学史だけでなく大学史や教育史を含めて幅広く文献考証を継続する.
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