研究課題/領域番号 |
16K17101
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
川久保 友超 千葉大学, 法政経学部, 講師 (80771881)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 小地域推定 / 情報量規準 |
研究実績の概要 |
当該年度は主に,共変量シフト下での条件付赤池情報量規準(Conditional AIC, cAIC)の理論的性質とその小地域推定への応用について研究を行った。統計モデルを用いて予測を行う際,モデルの構築・推定に用いた共変量だけでなく,予測に関連した共変量の値が利用可能な場合がある。推定に用いる共変量の値と予測に用いる共変量の値が異なる状況(共変量シフト)は,応用上しばしば想定される。しかしながら,cAICを含むほとんどのAIC型の情報量規準は,予測を目的としているにもかかわらず,推定に用いる共変量の情報のみから規準を構築している。この問題に対し,研究代表者を中心とした川久保他 (2014) は,共変量シフト下でcAICを修正した情報量規準covariate shift cAIC (CScAIC) を提案した。 しかしながら,CScAICには大きな欠点がある。それは,規準を導出する際に「候補モデルが真のモデルを含んでいる」という仮定をおいている点である。そこで,この仮定を外した上で共変量シフト下でのcAICの修正を行い,提案した手法が従来の手法より良いパフォーマンスをあげることを数値実験で示した。また,小地域推定で重要な関心事である「有限母集団の平均の推定問題」への応用可能性について議論した。 【参考文献】 川久保友超,菅澤翔之助,久保川達也「共変量の値が変化する状況下での線形混合モデルの変数選択とその小地域推定への応用」統計関連学会連合大会,2014年9月16日,東京大学本郷キャンパス
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題においては,混合効果モデルにおける変数選択問題に関する理論研究と,その小地域推定問題への応用を行うことを目指している。初年度である当該年度は主に,先に述べた「共変量シフト下でのcAICとその小地域推定への応用」についての研究活動を行った。研究成果は,ワーキングペーパーにまとめ,国際査読誌に投稿中(現在1st roundのrevise中)である。また,2016年9月に金沢大学で開かれた統計関連学会連合大会で発表を行い,数名の研究者からコメントをもらいディスカッションを行った。 また本研究課題に付随して,一般の線形回帰モデルに対する新しい情報量規準の概念を,研究代表者を中心として提案した。これはKawakubo et al. (2017) にワーキングペーパーのかたちとしてまとめられ,国際査読誌に投稿中(現在,revise後再投稿中)である。 さらに研究代表者は,統計数理研究所の菅澤翔之助氏とともに2017年3月にUniversity of GeorgiaのGauri Datta教授のもとに滞在した。Datta教授は長年小地域推定の研究に携わり,多くの業績を重ねている。滞在中,Datta教授,菅澤氏と小地域推定モデルにおける変数選択問題について議論を行い,目下研究を継続している。 このように,当該年度において論文のpublicationにまでは至っていないものの,芽が出そうな研究がいくつか進行しているため,計画はおおむね順調に進展していると言える。 【参考文献】 Kawakubo, Y., Kubokawa, T. and Srivastava, M.S. (2017). A variant of AIC based on the Bayesian marginal likelihood. arXiv preprint, arXiv:1503.07102.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,主に下記の3点について研究活動を行っていく。1つ目は,これまで取り組んできた「共変量シフト下でのcAICとその小地域推定への応用」を発展させることである。まず,現在1st roundのreviseを要求されているため,reviseを行い,論文としてpublishされることを目指す。また,国際学会等で,小地域推定の応用に関心をいだいている研究者とディスカッションを行い,応用上有用なものに改良することを目指す。 2つ目は「現在までの達成度」の箇所で言及したKawakubo et al. (2017) で提案された情報量規準を,混合効果モデルにおける変数選択規準に拡張する。Kawakubo et al. (2017) の情報量規準は,ベイズ周辺尤度とKullback-Leiblerダイバージェンスを用いた規準で,「予測の精度」と「モデル選択の一致性」の2つを達成することを目指したものである。そこで,規準の導出方法と,導出された規準が一致性を持つかについてが論点となる。これらについて明らかにしていきたい。 3つ目はDatta教授,菅澤氏と進めている研究を継続することである。本研究は,Jiang et al. (2011) で提案されたobserved best predictor (OBP) を小地域母数の推定値(予測値)として用いた場合の適切な変数選択規準を導出するというものである。規準の理論的性質を明らかにし,小地域推定への応用可能性を議論していく。 【参考文献】 Jiang, J., Nguyen, T. and Rao, J.S. (2011). Best predictive small area estimation. Journal of the American Statistical Association. 106, 732-745.
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