平成29年度においては,研究計画A「反実仮想のモデル平均予測量の構築」および研究計画B「セミパラトリックモデルへの拡張」について取り組んだ.特に研究計画Aにおいては,引用予定であった重要な先行研究において課題が見つかったことから,アプローチに修正が必要となっていた.これに対し,当初の計画である因子モデルに基づく定式化ではなく,最新の研究成果が数多く存在するクロスセクション方向の相関がある場合を構造的に考慮に入れる定式化を採用することで,個別処置効果の推定のためのモデリングに成功した.また,これに基づくモデル平均予測量の構成とその漸近的性質に関する基礎的な結果と,さらに,研究計画Bの一部であるセミパラメトリックなケースへの拡張における予備的な成果を得た.加えて,同時に進められた比較的大規模なシミュレーション実験において,既存手法を改善するといえる良好な結果を得た.
ただし,現在までの成果として,当初予定していたほどの広い応用可能性を持つモデリング,および予測量の構築には至らなかった点が課題となっている.これにより,実データを用いた実証分析である研究計画C「インフラによる地域経済への効果の検証」の実施には至らなかった.にもかかわらず,因果効果の推定における既存の予測手法を改善する方法を,経済主体が独立ではなく相互に関連しているというこれまで考えられてきた先行研究よりも現実的な状況において結果を導出できたことは,理論的に重要な進展であると考えられる.これらの研究成果は,今後のモデル平均理論や因果効果の研究における基礎的結果となることが期待される.
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