本研究の目標は、金融資産の価格の変動要因を抽出することである。平成30年度には、時系列分析を応用して資産価格理論における動学モデルに関する実証分析に取り組んだ。具体的にはリスクファクターのリスクプレミアム及びリスクの価格の推定と、それらに対応する投資家の選好パラメータの推定である。先行研究において統計的な有意性が確認されているファクターに関して、経済変数との動学的な関係を定量化することで、リスクプレミアムに対して経済学的解釈を与えることが目的である。 はじめに効用関数を基にした経済モデルと経済学的裏付けのない統計モデルの関係性を整理し、国内データを用いた実証分析を行った。しかしながら、従来のリスクファクターに対するリスクプレミアムを正当化させるような動学的構造を発見することはできなかった。また、推定された選好パラメータも経済学的観点から妥当なものではなかった。 このような結果が得られる原因としては、経済モデルが誤りである可能性もあるが、推定方法に問題がある可能性がある。リスクプレミアムの推定は、説明変数に推定値を用いることによる観測誤差の問題を抱えている。標本サイズが十分に大きい場合の統計的性質は先行研究で明らかにされているが、現実的な標本サイズの場合の精度は不明である。したがって、有限標本における推定量の統計的性質を調査する必要がある。特に本研究ではバイアスの性質を論文にまとめた。また、動学モデルの推定では、観測誤差の問題が2段階で発生する上に、自己相関の大きい変数を用いるため、有限標本では統計的に望ましい性質を満たさない可能性がある。実証分析を行う前に、これらの問題を統計理論とシミュレーションを用いて十分に検証する必要があると考えられる。
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