第一に、観測頻度が大きく異なる時系列間のグランジャー因果性(予測力向上可能性)について、既存の検定よりも高い統計的精度を持つ新たな検定を開発した。既存の検定はパラメータの二乗和のゼロ仮説を検定していたのに対して、新たな検定はパラメータの最大値のゼロ仮説を検定する。この工夫により、標本数に比べてパラメータ数が多いときでも、正確な因果性検定を行うことが可能となった。また、新たな検定を米国のマクロ経済変数に応用し、興味深い分析結果を得た。週次の長短金利差から四半期の経済成長率へのグランジャー因果性は、2000年頃までは有意に存在しているが、それ以降は有意性が弱まっている。この研究成果をまとめた学術論文は、計量経済学のフィールド・トップ・ジャーナルであるJournal of Econometricsに採択された。 第二に、複数の観測頻度が混在する回帰モデルの診断に適したホワイトノイズ検定を開発した。既存の検定は自己相関係数の二乗和のゼロ仮説を検定していたのに対して、新たな検定は自己相関係数の最大値のゼロ仮説を検定する。標本数が少なく、大きなラグに自己相関が存在する場合、新たな検定の検出力は、既存の検定の検出力を大きく上回る。さらに、検定に用いるべきラグの長さをデータから内生的に決定する手法も開発した。この研究成果をまとめた学術論文は、海外学術雑誌で2度目のrevise-and-resubmit に入っている。 第三に、新たなホワイトノイズ検定を世界の主要な株価指数に応用した。検定の結果、イラク戦争やリーマンショックなどの動乱期において、英米の株価収益率は有意なマイナスの自己相関を有するということが明らかになった。これは株価が部分的に予測可能であることを示唆する。この研究成果をまとめた学術論文は、Economic Modellingに採択された。
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