本研究課題では、親による住宅の提供が子供世帯に与える影響について実証分析を行った。具体的には、(1) 住宅における子供の親からの独立、(2) 住宅を通じた親から子供への所得・資産移転、(3) 住宅需要を踏まえた若年成人の消費や資産運用という3つの観点に基づいて実証分析を行った。2019年度においては、(3) の観点から、これまでの研究を踏まえて、実際に資産移転が行われる前の時点での、各種資産の相続期待の有無が家計の資産蓄積に与える影響を定量分析した。特に、今年度は資産移転の理論的背景に着目し、遺産動機の違いによる資産蓄積の違いについて明らかにした。この成果については、2019年8月に東洋大学で行われた研究集会と2020年5月にインターネット上で行われた研究集会、および同月にインターネット上で行われた日本経済学会で報告を行った。なお、この研究については、直井道生准教授(慶應義塾大学)、瀬古美喜教授(武蔵野大学)および隅田和人教授(東洋大学)と共同で行っている。 また、親子間の資産移転には、親子の属性や介護などの行動が反映されることが先行研究では指摘されている。ゆえに、移転を正確に分析するためには、親と子供、および子供のきょうだいに関して、それぞれに詳細な情報が必要になる。このため、民間のリサーチ会社を利用し、親が生きており、2人きょうだいで育った2028人の成人を抽出し、親やきょうだいについての詳細な調査を行った。また、そのきょうだいのより詳細な意思や行動に関する情報を得るために、その調査対象者のきょうだい824人に対しても調査を行った。 このデータを用いてきょうだい間の親に対する態度や、介護の分担についての考え方と親からの資産移転の関係について分析を行っている。分析結果からは、親の住宅の移転の有無ときょうだい間の経済格差によって、介護分担が決まっている可能性が示唆されている。
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