研究課題/領域番号 |
16K17136
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
濱秋 純哉 法政大学, 比較経済研究所, 准教授 (90572769)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 世代間資産移転 / 遺産動機 / 健康 / 労働供給 |
研究実績の概要 |
2016年度は,主に,日本における家族間の遺産分割と,遺産受取後の相続人の健康と労働供給の変化について研究を進めた。 前者の問題意識は,相続財産の家族間での配分が日米で大きく異なり,米国では財産が子供の間で均等分割されるのに対し,日本では不均等な分割が選択される場合が少なくないことを経済学に基づいてどのように説明できるかということである。分析の結果,米国の均等分割につながっている税制・習慣等の制度的要因が日本には存在しないことが分かった。さらに,日本における相続財産の(不均等)分割データ(個票)を用いて,最初の親が死亡した際の相続(1次相続)と,もう一人の親が亡くなった際の相続(2次相続)を比較することで,親の遺産動機や相続に影響している日本の伝統的家族観の役割等を検討した。その結果,日本で見られる相続財産の不均等分割パターンは,1次相続にせよ,2次相続にせよ,先行研究で指摘された種々の遺産動機仮説と概ね整合的だが,中でも,王朝的動機や戦略的動機は生き残った親が遺産分割に関与できる1次相続時においてより顕著に観察できた。一方,利他的動機のモデルから予想されるような,経済的に恵まれない子に多くを遺すというパターンは明瞭には検出できなかった。 二つ目の研究テーマの問題意識は,所得・資産の多寡が健康に与える因果関係が存在するかというものである。この分析を行う際には,通常,健康や労働供給から所得・資産に与える逆の因果関係の問題を回避する必要がある。そこで,親からの遺産の受取を外生的な資産の増加とみなし,それが子の健康や労働供給に与える影響を推定した。その結果,遺産の受取は子の労働供給を有意に減少させるが,健康に与える影響は小さいことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日米の遺産分割のメカニズムの違い,及び遺産受取が相続人の属性や行動に与える影響についてのデータ分析が順調に進んだ。遺産分割のメカニズムの分析については英語論文としてまとめ,学会や各種研究機関でのセミナー報告,並びに内閣府経済社会総合研究所のDiscussion Paperとして公表を行った。また,遺産受取が相続人に与える影響についての分析も,各種研究機関でセミナー報告を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度も引き続き,日本における家族間の遺産分割と,遺産受取後の相続人の健康と労働供給の変化について研究を進める。前者の成果論文については査読付き学術雑誌へ投稿中であるため,必要に応じて改訂を行ったうえで早期の出版を目指す。後者の成果については,国内外での学会で報告を行い,そこで得られたコメントに基づいて改訂し,論文としてまとめる。この他,遺産動機が家計の貯蓄率に与える影響や,生前贈与が行われるメカニズムなどについても分析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
分析結果をまとめた英語論文の英文校正を行うために助成金を残しておいたが,予想よりも分析に時間を要し,年度内に論文としてまとめられなかったものがあったため。
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次年度使用額の使用計画 |
論文を完成させ,英文校正を行う際に使用する。
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