研究課題/領域番号 |
16K17136
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
濱秋 純哉 法政大学, 経済学部, 准教授 (90572769)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 世代間資産移転 / 遺産相続 / 生前贈与 / 遺産動機 / 貯蓄 |
研究実績の概要 |
2018年度は主に,1. 遺産分割の結果と被相続人の遺産動機,2. 遺産動機が貯蓄率に与える影響,3. 生前贈与の動機の解明の三つの研究を進めた。1.については,遺産分割についての家族間の交渉プロセスを理論分析するためにナッシュ交渉解の枠組みに基づくモデルを構築した。具体的には,元々遺産分割のルールを外生的に与え,それを所与として家族間で遺産分割が行われると想定して理論分析していたが,それを家族間の交渉によって導かれると仮定を変更し,遺産分割のルールを遺産動機に関連する外生変数の関数として求めた。 2.については,高齢層を対象として,遺産動機が貯蓄率に与える影響を明らかにすることに取り組んだ。具体的には,著者らが独自に行った「家族とくらしに関するアンケート」の個票データで貯蓄率関数を推定した。この推定では、回答者が自分よりも子供の暮らし向きが悪化することを予想する場合に遺産動機が貯蓄率を高めるという仮説を検証した。その結果,遺産動機を持っているだけでなく,子供の将来の暮らしが自分よりも悪くなることを予想している場合に貯蓄率が有意に高まるという,仮説と整合的な結果を得た。 3.については,慶応大学「消費生活に関するパネル調査」の個票データを用い,贈与の受取頻度やタイミング,及びどのようなライフイベントや回答者の属性に応じて贈与が行われているか分析した。また,データのパネル構造を活かし,過去の贈与受取とその後の親への介護提供の関係からも動機の特定を試みた。その結果,大きな支出を伴うライフイベントの際,また,雇用の安定性が低いあるいは経済力の低い子に,親から贈与が行われる傾向が見られた。また,親が子の介護や援助を引き出すために,贈与をその後のさらなる資産移転のシグナルとして用いていることを支持する結果は得られなかったため,親の贈与の動機は利他的動機と整合的といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
補助期間の一年目に学術雑誌に投稿した論文の改訂に想定以上に時間がかかり,計画が遅延した。具体的には,データ分析の結果を説明する理論モデルの構築を査読者から要求され,その対応に約一年要した。同時並行で他の研究も進めたものの,当初計画からの遅れを挽回することは難しかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,1. 遺産動機が貯蓄率に与える影響,及び2. 生前贈与の動機の解明の二つの研究を進める。1.については,「回答者が自分よりも子供の暮らし向きが悪化することを予想する場合に遺産動機が貯蓄率を高める」という仮説について理論モデルを構築した上で,それに基づいてデータ分析を行いモデルと整合的な結果が得られるか検証する。2.については,これまでのところ親が子に贈与を行う動機として利他的動機を支持する結果が得られているが,子が親の老後の面倒を看る見返りに親から贈与を受けるという交換動機などの他の動機の可能性も完全には否定できない。したがって,利他的動機と交換動機を識別するための分析上の工夫を行うか,利他的動機(あるいは交換動機)と整合的なより多くのエビデンスを見つける。
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次年度使用額が生じた理由 |
補助期間の一年目に学術雑誌に投稿した論文の改訂に想定以上に時間がかかり,計画が遅延した。具体的には,データ分析の結果を説明する理論モデルの構築を査読者から要求され,その対応に約一年要した。同時並行で他の研究も進めたものの,当初計画からの遅れを挽回することは難しかった。国際学会(3rd meetings of Society of Economics of the Household)での研究報告や論文改訂等のために研究費を有効活用する。
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