本研究プロジェクトにおける2019年度の主な成果は以下の通りである。まず、人事制度・施策の改革や、それと企業統治のあり方や企業行動の変容の関わりに関して分析した論文「企業統治と雇用システム」が、細江守紀編著『企業統治と会社法の経済学』(勁草書房)に掲載された。これは、株主重視型の企業統治のあり方と、成果主義的な性格の強い賃金制度との間に、補完性の存在が示唆される結果を得ている。一方で、成果主義の弱点とされる近視眼的な目標設定、同僚との協力や部下の育成などの例があるマルチタスク問題、チーム生産によるモラルハザードの克服については、企業統治のあり方との明確な関係を見いだせなかった。 また関連する研究として、日本人の正社員を対象としたWebアンケート調査を実施して、Vaszkun Balazs Gyorgy氏(ハンガリー・コルヴィヌス大学)と共同で論文"Confucius - a Chinese thinker still present in Japan’s business practices"を執筆し、European Journal of International Managementへ投稿、掲載が決定された。この論文では、いわゆる日本型雇用の諸特徴のうち、儒教的な考え方への親和性が認められるのは、経済的な要素よりも心理的契約の要素であることを示したものである。さらに、野田知彦氏(大阪府立大学)との共同で執筆した論文「労使コミュニケーションは成果主義の導入効果を高めるか?」が『日本経済研究』から採択された。労使協議制を通じた労使コミュニケーションがある企業の方が、成果主義による企業パフォーマンス上昇効果が大きいことを示した研究である。
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