本研究においては、移動可能な資本を自国・自地域に誘致すべく財政政策を通じて展開される各政府間の競争(財政競争)をグローバル化の一端と捉え、それにより各国・地域内での政治構造がどのような影響を受けるか、という点を焦点とし分析を行ってきた。 主たる結果として、資本課税を通じた政府間競争の場合は競争状態でない場合(グローバル化を特徴づける資本市場統合がなされていない場合)と比較して、左翼的候補者(資本を多く持たない候補者)が政策決定者として選出される傾向が示唆され、その一方で公共投資を通じた政府間競争の場合は、逆に右翼的候補者(資本を多く持つ候補者)が選出される傾向が示された。また、地域間の選挙の相対的なタイミングの違いの影響についても分析を行ったが、上記同様に資本課税競争と公共投資競争では互いに真逆の効果をもたらすことが明らかとなった。 これらの対照的な結果は、政策変数の戦略的関係性(互いに同一の方向に政策変数を動かすか否か)が異なることに起因すると指摘できる。 加えて、資本課税と公共投資の2つの政策変数が同時決定される状況で、地域内の厚生水準の最大化を真の目的とする政府内の任命権者によりどのようなタイプの政策実施者が選択されるのか、という点についての分析も行い、競争の対象となる移動可能な資本について経済外から流入するその割合が高まるほどにリヴァイアサン的(税収最大化を目的とする性質の)政策実施者が選択される傾向が示された。 また、理論的枠組みの発展に寄与する意味で、上記一連の間接民主主義制度と国・地域間の政策決定を扱う理論モデルを国際経済分野に応用し、関税協調の締結方式と地理的関係についても考察を可能としたことを付記しておきたい。この分析においては、自由貿易協定が関税同盟と比較して、立地上の距離に制約を受けないが故に締結数が増加しやすい、ということが示された。
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