研究課題/領域番号 |
16K17144
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研究機関 | 独立行政法人経済産業研究所 |
研究代表者 |
劉 洋 独立行政法人経済産業研究所, 研究グループ, 研究員 (50635084)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 還流型移民 / 期待収入 / 労働市場 |
研究実績の概要 |
1年目に、まず、法務省、世界銀行などから入手したマクロデータを用いて、構成した理論モデルに基づいて、実証研究を行った。ここで主に高度人材である留学生の還流型移民に注目する。法務省「在留外国人統計」などのデータを用いて、年度別・国別の外国人留学生の日本に就職する人数と割合、帰国する人数と割合を計算し、データセットを作成した。さらに、作成した年度別・国別の還流型移民のデータを、経済と労働市場のマクロデータ(世界銀行などから入手)と接続し、分析用のパネルデータを構築した。推定結果では、出身国での期待収入(1人あたりGNI)は還流型移民に有意な正の影響と、出身国の環境汚染(PM2.5指数)は還流型移民の率に有意な負の影響が得られた。それから、国レベルでの還流型移民に対して、労働市場の逼迫性と労働市場マッチング効率性は有意の影響が得られなかったが、理論モデルで予測した負の推定値が示されている。 研究の意義として、まず、日本における還流型移民について、国レベルのデータを用いた初の研究であった。日本で高度教育を受けた外国人移民は、出身国が豊かであるほど、そして、出身国の環境汚染が少ないほど、日本を離れる確率が高いという結果が得られた。また、前述の労働市場の要因は、それらと比べると小さいということも分かった。 最後に、1年目の論文として、「To stay or leave? Migration decisions of foreign students in Japan」というタイトルで、経済産業研究所のディスカッション・ペーパーとして公表した。国別データの分析を補うために、留学生のアンケート調査結果から計量分析用の個票データベースを作成し分析を行った。主な結果の1つとして、移民の期待効用に深く関わる文化という要因は、日本に残るという意思決定に有意な正の影響を与えることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書通りに推進してきており、1年目に計画した分析作業などをすべて完成した。具体的には、法務省「在留外国人統計」、「出入国管理統計」などのデータと世界銀行のデータを接続するという作業を完了したとともに、理論モデルを構成し、その中で示された変数を、国別年度別のパネルデータで検証した。1本目の論文を執筆し、ディスカッション・ペーパーとして公表した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画通りに推進する予定である。具体的には、企業と労働者のマッチング・データを用いて、労働者個人レベルにおける還流型移民行動を分析する。論文を執筆し、学会発表とジャーナル投稿を行う。 個人レベルにおける還流型移民について、単に還流するかどうかという二値選択ではなく、ドイツの先行研究Waldorf (1995)を参考に、還流するタイムフレーム、すなわち帰国する予定期間を考慮してより精緻に分析する。そして、労働者行動のみを考慮した先行研究を発展させ、企業行動と労働者行動の両方を実証モデルに入れて分析を行う。外国人労働者の移民選択は、期待収益に基づいて意思決定を行い、その期待収益は、労働者側と企業側の両方から影響を受けるという実証モデルを構成する。企業側の要因として、売上高、固定資本などの企業属性のみならず、サーチ理論で示された離職率が移民行動に与える影響をも考慮する。理論的には、離職率が高い企業で働く労働者は、将来に対する期待収入が低下するが、移民モデルにおいては一致する結果になるかどうか、実証的に検証を行う。労働者側においては、日本のデータを用いた初の実証研究であるため、まず、他国の先行研究で有意に示された、個人属性、滞在年数、語学力などをコントロール変数として実証モデルに入れる。さらに、本研究の理論モデルで示された、期待収益に影響を及ぼす労働者側の変数(現在の賃金、出身国の平均所得、出身国の不平等指数など)を組み入れて、推定を行う。 利用するデータは、独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った「日本企業における留学生の就労に関する調査」の個票データである。全国の従業員数300人以上の全企業とそれら企業で働く留学生を対象としたユニークなデータである。企業データと留学生データは別々だが、マッチングキー変数が含まれているため両データをマッチングできる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究用のノートパソコンのデータ通信は、今年度に自費で支払ったため、少し余った金額(2万円)が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究用のノートパソコンのデータ通信に利用する。
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備考 |
1,文字数制限で入力できなかったため、2番目の全タイトルは「Cultural Diversification through Employment of Foreign Workers: Benefiting firms and cities」である。 2. 1番目と2番目はそれぞれ日本語と英語で作成した同一内容である。
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