本研究では,構造型アプローチを用いて,債権者が債務償還を猶予する場合の企業の信用リスクを計測するモデルを構築することを目的とした.この研究背景には日本的なメインバンク制度があり,間接金融主体の日本の融資システムでは,債権者が一人(メインバンク)である場合も多く,それゆえ業績が芳しくない場合に債権者が償還の猶予を可能にするという側面がある.これは不特定多数へ販売される債券とは本質的に異なる性質を持つはずであり,そのような企業の信用リスクを計測することが目的であった. 我々はそのようなモデルを,できる限りシンプルに構築することによって,解の存在等,数学的にモデルの一般性を証明できることが多く生み出されるようにし,論文としての価値を高めることができたと考える. このモデルは,企業が1単位の債券を一人の債権者に売却している状況を仮定しており,それゆえ上述のように数学的にきれいな性質が生まれたわけだが,今後はこのシンプルなモデルをベースに,様々な発展的なモデルを構築することも可能であると考えた.例えば満期が異なる2種類の債券を,別々の債権者が保有している場合と,共に同じ債権者が保有している場合で信用リスクが異なる可能性があるが,本年度はそのような場合での実際の倒産確率等の測定を行うためのモデル構築を行ってきた.残念ながら年度内に論文としてまとめることができなかったが,来年度以降も継続して本研究を続けていきたいと考えている.
|