研究課題/領域番号 |
16K17154
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
西川 輝 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 准教授 (30622633)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ブレトンウッズ体制 / 資本自由化 / 変動相場制 / 国際金融機関 / 国際金融危機 / 国際金融協力 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ブレトンウッズ体制の動揺・崩壊が、国際通貨基金(IMF)の役割に如何なる変容をもたらしたのか歴史実証的に解明することにある。研究初年度にあたる平成28年度においては、IMFを中心とする国際機関の一次史料の収集・整理と先行研究のサーベイを行うことを目的として設定した。 まず一次史料の調査については、①IMFの主要スタッフ(同時代の専務理事および主要部局のスタッフ)が残した政策文書類、②OECD・BISの議事録史料の収集・整理を目的として設定した。①については、IMF史料館(米国・ワシントンD.C)での史料調査を計画していたが、急遽、2016年夏季以降、外部研究者の来館を制限・禁止する方針が発表されたことから、公開済みの一次史料の精査とIMFが公刊している年次報告等を収集する方針に切り替えて対応した。②については、8月下旬に、BIS史料館(スイス・バーゼル)において1週間程度の史料調査を実施した。この調査を通し、ブレトンウッズ体制の動揺・崩壊をめぐる国際機関・主要各国間(G10)での国際金融協力の実態を解明するうえで重要な一次史料を、当初の想定以上に発掘・収集することができた。なおOECDについては、過去の調査を通じてすでに資料収集が完了しているため、追加調査は実施しなかった。また以上の史料調査に加え、平成28年度においては、オンラインジャーナル等を活用し最新の先行研究のサーベイを進めた。そして、ブレトンウッズ体制をめぐる研究史について総括的にまとめたサーベイ論文を学会誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記「研究実績の概要」でも述べた通り、研究初年度にあたる平成28年度においては、IMFを中心とする国際機関の一次史料の収集・整理と先行研究のサーベイを行うことを目的として設定した。一次史料の調査に関しては、急遽、IMF史料館が外部研究者の来訪を禁止する方針を打ち出したことが予想外の事態であった。IMFの一次史料は、多くが電子化され公開されているものの、史料館に来館しなければ閲覧できない未公開史料も存在する。これら未公開史料については申請によって、漸次、電子化と公開を進める方針であるとされているため、すでに複数の史料について公開申請を行っているが、アーキビストによる事前のスクリーニング等に多大な時間を要することから、本研究期間内に入手できる可能性は低いと考えている。さらに、こうした史料の公開方針は、一時的なものではなく永続的なものであると思われるため、公開済みの一次史料だけではなく年次報告等の刊行物を精査する方針に切り替えて対応した。 他方、BISにおける史料調査においては、当初予定していた「金為替に関する専門家会議」等の議事録にとどまらず、同時代の国際金融協力の中枢にあったG10に関する膨大な一次史料群、BISエコノミストたちの残した政策文書群を多数収集することができ、想定以上の成果を挙げることができた。なお、収集した史料の整理は平成28年度内に完了している。また先行研究のサーベイについても、これまでの先行研究のサーベイを基に、サーベイ論文の執筆と学術誌(政治経済学・経済史学会編『歴史と経済』)での発表を達成することができた。以上より、平成28年度の目標であった一次史料の調査・先行研究のサーベイは、おおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に実施した作業を基礎に、平成29年度以降は、最新の文献サーベイを継続しつつ、収集した史料の分析および分析結果のとりまとめに重点を置く。すなわち、平成29年度は史料の分析と中間的な成果を学会や研究会等で発表する時期とし、平成30年度に総括的な成果を国際学会や海外ジャーナル等で発表するとの当初の推進計画に変更はない。 これに対し、IMF史料館による史料公開制限に対しては、追加的な措置を講じる予定である。もちろん、IMF内部における政策形成過程やその理論的な特質を解明するうえで、これまで収集した素材(IMFによる既公開の一次史料や刊行物)は有用な代替手段となりうるし、BISでの調査において収集した膨大な史料群は、ブレトンウッズ体制の変容をめぐる同時代の政策課題や対応策を検証するうえできわめて有益な情報を提供するものと判断できる。他方それらを補完し、より厳密な史料的裏付けの下に研究を進めるため、平成29年度においては、アメリカ国立公文書館(ワシントンD.C)に所蔵されているIMF関連の史料の調査を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度においては、当初、物品費として史料保存用の器材および文献の購入費用、旅費としてIMF史料館(米国ワシントンD.C.)およびBIS史料館(スイス、バーゼル)への出張費用、そのほか史料整理補助者への謝金と文献資料の複写費を直接経費として計上していた。これに対し、書籍の購入費用は概ね当初の予定通りであったが、史料保存用の器材を新たに購入しなかったこと、補助者を雇用せずに自ら資料整理を実施したこと等の理由に加え、外部研究者の来館禁止措置のためにIMF史料館への出張を中止したこと、BIS史料館への出張に際し出張費用の一部に横浜国立大学の学内経費を充当したことを主な理由として、旅費を中心に直接経費の支出額が当初の予定を下回った。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度においては、当初の計画通り、文献購入費用および国内学会への出張費用等を直接経費の支出項目として想定している。他方、平成28年度からの繰り越し分を活用し、アメリカ国立公文書館(米国ワシントンD.C.)における史料調査の費用(1週間程度を想定)と、史料の整理・保存用の器材の購入のため、追加的な支出を行う予定である。
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