研究実績の概要 |
2016年度は、次の2点から研究を進めた。1つは、経営者ネットワークによる役員兼任行動に関する研究である。1907年・1917年・1925年の『全国諸会社役員録』に記載された東京府(現在の東京都に該当)の株式会社の取締役・監査役・相談役のデータベースを用いた。対象社数及び延べ役員数は、1907年が484社、3,289名、1917年が1,056社、6,587名、1925年が2,725社、17,961名である。複数の会社の役員に就任している役員数及び割合については、1907年では、433名、18%であり、1917年では、930名、20%であり、1925年では、2,380名、18%であった。ここから、時代によって割合に大きな変動がないことが分かった。また、兼任社数が増加するほど、それに該当する役員数は減少し、べき乗分布をとっていたことも合わせて判明した。そのうえで、兼任社数が多い役員を登用する会社が、どのような会社であるのかを存続年数、製造業、資本金規模の観点から検討している。 もう1つは、1920年代から1930年代にかけての資本市場や企業統治の構造が、株式会社の配当政策や減価償却行動にどのような影響を与えたのかという点である。配当金額や減価償却金額の増減を利益の増減による部分と利益に占める配当金の割合(配当性向)や減価償却金額の割合の増減による部分に分けて分析を行った。その結果、1930年代一貫して利益の増減による影響が大きいこと、また1930年代前半にはそれに加えて配当性向や利益に占める減価償却金額の割合の変動も大きいことが判明した。以上の研究成果は、経営史学会が発行する英文学術雑誌であるJapanese Reserch in Business Historyで公表した。
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