研究課題/領域番号 |
16K17162
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉岡 徹 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任助教 (60771277)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | イノベーションマネジメント / デザイン / 知的財産 / デザイン・エンジニア |
研究実績の概要 |
デザイナーの活動の定量的な計測を行うため、そのデータ基盤の整備と、それらデータの有効性についての基礎的な研究を実施した。具体的には、デザイン賞に焦点を当て、デザイン賞受賞製品と対応する意匠・特許の特定を進めるとともに、日本のグッドデザイン賞の基礎的な分析を行った。前者については、従来の国際的な研究ではもっぱら欧州の意匠制度の有効性が説かれていることへの疑義を提示し、同時に、意匠制度がデザイン賞を受けたイノベーション成果と整合していることを示すため、日米欧中の4カ国の意匠制度において、デザイン賞の対象となった意匠が実際に登録されているかの調査を行った。目視での検証も含む慎重なデータセット構築を行った結果、企業による意匠制度利用意向の強い影響を受けるものの、意匠制度がデザイン賞と整合的な制度であることが検証された。併せて、デザイン賞を受賞したデザイナーは当該受賞製品に関連すると推測される特許出願を一定数行っている傾向が見えた。後者については、グッドデザイン賞の研究用データセットとしての有効性の検証を行った。これらのデータを用いて、優れているとされるデザインを持つ製品がどのような人材により生み出されたかの分析が可能となる。 これらの基礎的な研究と並行してデジタルカメラのデザイン開発と技術開発の関係についての事例調査を行い、機能的なイノベーションの成果に対して、旧来の製品でのドミナントなデザインが、引き続きドミナントになる現象を見出した。いずれの成果も論文化し、学術雑誌に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、平成28年度は特許・意匠データの分析によりデザイン・エンジニアを特定し、その上で彼らがイノベーションに対する寄与を分析することを予定していた。実際、上半期は当初計画どおりに分析を行い、その初期的な分析結果について9月に国際会議において発表を行うことができた。発表の結果、特許・意匠に加えて、デザイン活動を典型的に表す他のデータと組み合わせ、より精度が高く、かつ、納得性の高いデータベースを構築し、分析に応用すること有用性の指摘を受けた。直近に公開されたOECDでの議論も踏まえ、下半期は当初計画に新たな研究テーマを付け加える形で、デザイン起点のイノベーションの計測に有効なデータ基盤の整備を行った。具体的には特許・意匠のうちデザイン賞の対象となったものについて収集をし、特許・意匠とデザイン賞を受賞するようなイノベーション成果との整合性を検証した。この成果は、特許・意匠のデータ基盤としての有効性を補強する有効な証拠であるが、世界で初めての試みであり、なお幅広い議論が必要であると考えられたため、その初期的な成果を国内学術誌に投稿し、公表した。また、併せて、デザイン賞自体についての特性とそこからうかがわれるイノベーションの性質の変化を把握するため、日本のグッドデザイン賞44,000件のデータの基礎的な分析を行い、ワーキングペーパーとして公表した。同時に、デジタルカメラを例とした事例調査も実施し、そこから得られた知見を論文化し、国際的な学術誌に投稿した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、前述のデータ基盤の拡充を第一に行う。具体的にはデザイン賞の対象となった特許・意匠の特定作業を進め、一定の母集団を確保したのち、その特徴の解析を行う。その成果については、欧州で開催される国際会議において発表する他、成果の世界的な新規性が高いことに鑑み、学術的な名声の高い国際的な学術誌への投稿を目指す。なお、そのためには極めて学術的に高い精度の解析と考察が求められるため、国内外において研究者を対象とした小規模な研究発表の場で積極的な研究発表を行い、多数のフィードバックを受ける。これらのデータ基盤の整備が進み次第、研究計画どおりにデザイン・エンジニアの果たす役割についての実証的な分析を行い、イノベーションに対する寄与への示唆を得る。並行して、事例調査を複数実施し、デザイン・エンジニアの組織内での役割とその背景、さらには、アウトカムについて詳細な調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
最大の要因は、従来意匠データについては民間のデータベースの契約が必要であったところ、文部科学省科学技術・学術政策研究所において研究用データベースが整備され、2016年から公開されたことにある。これによって研究支出が大幅に抑制され、その分を前述の研究テーマ追加によって必要になる研究活動費に充てることができた。また、一部の国際学会発表については、他の研究プロジェクトの研究発表ならびに情報交換のために派遣される機会を活かして併せて行ったため、旅費の節約にもつながった。しかも、これは全く異なる視点からのフィードバックを得られるという副次的な効果もあった。
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次年度使用額の使用計画 |
今後の研究の推進方策記載のとおり、新たな研究テーマを追加した関係上、国際的な口頭発表、および、論文発表のための英文校閲費用などがかかる。次年度使用分だけではこれらを十分に填補できないため、所属学会の英文校閲助成の申請を行うなどして補っていく。
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