企業の市場における活動についてはかなりの程度、研究が進んできている。すなわち、企業がどのような製品やサービスを、どのように提供するかという点についての研究である。
それに対して、研究が圧倒的に不足しているのは、企業の市場外での活動である。特に、企業がどのように製品やサービスを提供する際の「ゲームのルール」を策定しているのかという点については、驚くほどに研究が足りない。市場および、非市場での企業活動が不可分であるということを考えるならば、この不足は、実務的にも、学術的にも大きな問題を孕んでいると言えるだろう。こうした問題意識に基づき、本研究では、非市場戦略がどのように実施されるのかという点を中心に検討を行った。その際に、日本の出版業における定価販売という「ゲームのルール」の策定を中心に、詳細な事例研究を行った。
この結果、次のことを明らかにすることができた。企業の利害関心を正面に据えて、非市場戦略が実施されるのではないということである。いわゆる社会的な事項と結びつけて、「ゲームのルール」の必要性が主張されてきたということである。すなわち、定価販売は個々の企業の利得との関連で意義があるというわけではなく、文化を守るという観点から重要だという主張が展開されたのである。この成果については、本研究助成を受けて、論文とし、Business Historyという第一線の国際的な学術論文として採択されるに至った。
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