研究課題/領域番号 |
16K17168
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中村 健太 神戸大学, 経済学研究科, 准教授 (70507201)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 商標 / イノベーション / 実証分析 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、日本の自動車企業、医薬品企業について『J-PlatPat』(工業所有権情報・研修館)で商標検索を行い、製品等との対応関係を分析した。 商標が実際の新製品・サービスとリンクしていることを確認した研究はほとんどないが、例外的な研究がMalmberg(2005)であり、業種間の商標戦略には差があることを見いだしている。具体的には、電気機械・自動車産業では、モデルナンバーで製品を識別する傾向があるため、必ずしも新製品に対応した商標が出願されない可能性があるのに対し、医薬品産業では製品ごとに商標出願を行う傾向があると述べている。日本企業を対象とした今回の分析では、先行研究が指摘するほど産業間に明確な差異は発見できなかったが、逆に、同一産業においても企業間で商標戦略の多様性が存在することが分かった。その他、確認された事項は以下の通りである。①商標は、実際の製品・サービスと(ある程度)リンクしている。したがって、商標データにはイノベーション指標としてのポテンシャルがある。②他方で、製品化されていない商標も存在する。③商標は基本的に「new-to-the-firm」な製品・サービスに付されるものであり、必ずしも「new-to-the-world」なイノベーションとは限らない。④「new-to-the-firm」な製品・サービスであっても、「大きな」新製品と「小さな」新製品が存在する。⑤商標の出願数は、業種や企業の事業分野に依存する。 また、平成28年度にリレーショナル・データベース化した商標の『整理標準化データ』(特許庁)の解析を進め、研究用データベースの構築を行った。データベースの構築過程及び特徴は、平成30年度中に論文として刊行される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、日本の自動車企業、医薬品企業について商標検索を行い、製品等との対応関係を分析することで新たな知見を得ることができたが、サンプルの拡大など今後の課題も明らかになった。他方で、平成30年度に実施予定の商標の出願や保有が企業価値や企業成果に与える影響に関する実証的分析について、予備的な推計を行うことができた。これらの点を勘案し、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、商標の出願や保有が、企業価値や企業成果に与える影響を明らかにする。既存研究では、商標の効果は、必ずしも安定的には検出されていないが、これは、アド・ホックな減耗率の利用や、商標属性のコントロールが不十分な状態で商標ストックを計算したことが影響していると推察される。そこで本年度は、まず減耗率の推定を行い、次に推定された減耗率や商標のタイプや属性を考慮した商標ストックを計算し、企業価値等への効果を分析するといったアプローチを採用する。 商標権の減耗率の推定は、商標レベルのデータを用いて、業種あるいは商標分類ごとに行う。推定方法は、特許の実証分析における方法を援用する。具体的には、権利維持期間の情報を用いたBosworth(JIE 1978)の簡便法、維持期間と権利維持費用の情報を用いたPakes and Schankerman(in R&D, Patents, and Productivity 1984)の推定法が想定される。特に、後者はパラメータとして減耗率が得られることに加えて、商標の私的価値を推計することもできるため有力な方法である。 上で得られた減耗率を用いて商標ストックを定義し、トービンのqや売上高成長率、ROA 等への効果を回帰分析により推定する。また、ストックのビンテージに加えて、権利の幅、商標のタイプなど(企業・製品ブランド、ブランド想起型等)各種商標属性の影響も反映させた定式化を目指す。この分析を通じて、いかなる業種、企業において商標によるブランドや製品の保護が有効であるかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】平成29年度は、海外研究協力者の来日があったため、国内での研究打合せが実施できた。また、商標と製品等との対応関係の分析において詳細なパイロット・スタディーを行ったが、リサーチ・アシスタントを雇用してサンプルを拡大するまでに至らなかった。以上の理由から、旅費および人件費の一部を次年度の繰り越した。
【使用計画】主に夏期休業期間中にリサーチ・アシスタントを雇用して労働集約的な作業を進め、分析を強化する予定である。
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