研究課題/領域番号 |
16K17172
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研究機関 | 高崎経済大学 |
研究代表者 |
向井 悠一朗 高崎経済大学, 経済学部, 講師 (40738514)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 製品開発 / 造船 / 複雑性 |
研究実績の概要 |
本年度は、先行研究のレビューおよび造船産業の事例研究を行なった。まず、製品開発論、製品アーキテクチャ論、CoPSを中心とした複雑性に関する議論をレビューした。製品開発に関しては、構成要素の多数性や多様性への対応に注目した、1960~80年代の製品開発論、1990年代後半~2000年前半のCoPSの議論の一方、構成要素間の相互依存性に注目した製品アーキテクチャ論も1990年代以降の議論されてきた。製品アーキテクチャの選択は、特にハードウェアの製品であれば、部品がより上位の製品システムに組み込まれるとき、あるいは人間によって使用されるとき、設計対象となる製品・部品とその上位システムとの物理的な相対的関係が、製品アーキテクチャの決定に影響すると考えられる。しかし、製品・部品と、それが使われる上位システムや補完財の規模との相対的な関係が設計にどう影響するかという議論はあまりなされていないことが考えられた。 事例研究に関しては、複数の造船各社の製品開発戦略を検討し、主力製品の「大きさ」によって補完財との相互依存関係が強いとき、人工物全体(製品)レベルはカスタマイズ設計が選択される傾向がみられた。また、製品の「大きさ」による制約が厳しいと、内部の部品やサブシステムでは取り得る設計パターンの選択肢が限られ、逆に制約が比較的厳しくなければ、顧客要求を受け入れやすく、カスタマイズされる傾向がみられた。 このように、設計思想の選択に、主力製品の物理的な要因が関与する可能性があった。この点は、先行研究において、あまり議論がなされていない点であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、つぎの2点の課題に取り組むものである。第一に、それぞれ異なる製品戦略を選択して生き残ることができた企業が、どのように製品アーキテクチャを設定してきたのか、である。第二に、先発国企業であっても非先端技術・非高付加価値分野で依然、競争力を持つのはなぜか、である。 以上2点のキー・リサーチ・クエスチョンのうち、本年度は主に第一の点について取り組み、先行研究のレビューと造船産業の調査を行なった。この結果、船舶の設計においては、取引関係、入手可能な技術、安全・環境面の規制などの知識的制約や社会的制約がほぼ同じ中で、製品の外側は周囲の補完財との相対的な物理的な関係、製品の内側は部品の物理的な関係によって、設計特性の選択が変わることが考えられた。先行研究では、知識的制約や社会的制約からくる、要素の多数性・多様性や要素間の相互依存関係など、複雑性への対応が議論されてきた。これに対し、物理的に大規模な人工物である船舶に注目することにより、本稿は先行研究が意外と取り上げてこなかった、人工物の物理的な規模に関わる問題に焦点を当てることができた。こうした点について、いくつかの成果発表を行なった。以上より、3年間の本研究の1年目として、おおむね順調に推移していると思われる。 ただし、本年度の研究と通じて、企業レベルの製品戦略と、個別製品の設計選択とでは、分析単位にやや乖離があることも考えられた。この点は、本研究の第一の問題意識に関する今後の検討課題として残された。
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今後の研究の推進方策 |
今後の本研究の推進方策については主に3点挙げる。第一に、本年度の課題として残された、企業レベルの製品戦略と、個別製品の設計選択との、分析単位の乖離に関して検討することである。これまでの造船会社への調査によると、設備の制約、既存顧客の需要などにより、各企業が主力とする製品を選択し、その製品の「大きさ」に合わせた設計思想が選択された。その後、設備の拡張や、既存顧客の変化、新規顧客の開拓などにより、製品戦略が変化するなかで、設計思想の選択は従来の主力製品にあわせられたままであった。このように、設計思想の選択に関して、企業の中で変異・選択(淘汰)・維持がある可能性がうかがえた。分析単位の乖離に対して、設計思想の選択の発生論と機能論から整理する必要があると考えられる。 第二に、本研究の第二の問題意識について取り組む。すなわち、先発国企業であっても非先端技術・非高付加価値分野で依然、競争力を持つのはなぜか、について検討する。これに関しては、まず、国際分業をはじめとした国際経営の先行研究のレビューを行なっていく必要がある。その上で、造船産業において、具体的にどのような戦略をとることによって、非雁行形態論的な現象をもたらしたのかを検討する。また、賃金、生産性(工数)の格差、調達費など、国際分業に関連する諸要素も改めて検討する。こうした検討を、今後の成果発表につなげていく。 第三に、研究対象を広げ、本研究から得られるであろう示唆の一般化可能性やその限界について検討する。今後の研究方策の一点目、二点目については、研究対象としては主に造船産業を中心としている。そこで、特に造船産業以外の調査対象を広げて産業間比較を行ない、一般化可能性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度については、造船産業の調査に対して、日本生産性本部の研究助成も受けられた。このため、本年度に限っては、とくに旅費を日本生産性本部の研究助成から支出したことにより、当初計画よりも本科研費による支出が少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降の調査旅費の支出は、主に本科研費から支出することを想定している。また、成果発表にあたり、現在執筆中の英語論文の翻訳、校閲などの費用がかかるため、当初想定と比べて、これらに関連する人件費・謝金の支出が増えることが予想される。こうした費用増加分について、現在生じている次年度使用額を当てる予定である。
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