今年度の研究成果としては、大きく2つの点を挙げることができる。第一に、企業間で共有されるオープンな「技術標準(technological standard)、具体的にはアーキテクチャ、インターフェースは、企業が生産するサブシステム間同士をつながりやすくするための仕組みである。そういった意味において、こうした技術標準はビジネスエコシステムの土台を形成することを確認し、標準とエコシステムの関係を概念的に結び付けた。そして、こうした技術標準をつくるためのプロセスに着目し、関連論文のキーワードをすべてピックアップし、これらキーワード間の関係のネットワーク分析を行った。その結果、「競争ベース」と「調整ベース」という2つの主要な標準化プロセスを特定し、とくに後者は、知財戦略とも関係しており、標準と知財をうまく連動させてエコシステムを形成する「オープン&クローズ戦略」の重要性を議論した。 次に、こうした調整ベースの標準化の中で、民間企業ベースのインフォーマな標準化プロセス、すなわち参加メンバー間の合意によって形成される「コンセンサス標準」に着目し、コンセンサス標準をめぐる企業行動に関して、車載ソフトウェアのグローバル標準「AUTOSAR」の事例を対象に、以下の因果関係について定量的に検証した。(仮説1)標準化活動に貢献するほど、成果としての標準を導入する一方、(仮説2)知識量が多いほど、成果としての標準を導入しない、という関係である。回帰分析の結果、仮説1、2とも支持され、そのことからコンセンサス標準をめぐる企業行動として、推進者(貢献〇、導入×)、監視者(貢献〇、導入×)、フリーライダー(貢献〇、導入×)、安住者(貢献×、導入×)という4つの基本パターンに分類した。さらに、推進者はフリーライダーを巻き込んで、標準をベースとしたエコシステムの形成を促す等の戦略的行動についても分析した。
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