研究課題/領域番号 |
16K17180
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
永山 晋 早稲田大学, 商学学術院, 助教 (10639313)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 社会ネットワーク / コミュニティ / ネットワーク・ダイナミクス / クリエイティビティ / 知識 / クリエイター / クリエイティブ産業 |
研究実績の概要 |
経営学における社会ネットワークを援用した既存研究は、特定時点のネットワーク構造とアクター(個人やチーム、組織など)のパフォーマンスの関係を主な分析対象としてきた。しかし、ネットワークの動態的な変化パターン自体もアクターのパフォーマンスを左右しうる。そこで本研究は、事前のパイロット調査から見出された「ネットワーク・コミュニティの融合と分裂」という変化パターンに着目し、これらとアクターのパフォーマンスの関係について定量的に明らかにすることを目的とした。とりわけ、ネットワークの主要効果である知識や情報の移転、創造を考慮し、アクターのパフォーマンスとしてクリエイティビティに着眼した。また、日本の音楽産業のクリエイターの時系列データを調査対象とした。 2016年度は、データベースの構築に向けたデータ取得、文献レビュー、既に構築したデータベースを用いた分析を進めた。分析の結果、適度な数のコミュニティが融合していくダイナミクスに埋め込まれたクリエイターは作品の商業的パフォーマンス、創造的パフォーマンスが高まることが明らかとなった。一方、多数のコミュニティ分裂に埋め込まれたクリエイターは商業的パフォーマンスを高めることが明らかとなった。当該研究成果は、2017年8月に行われるAcademy of Managementで発表する予定である。 もう一つの研究成果としてあげられるのが、クリエイターの経験とプロジェクトチームの創造的パフォーマンスの関係に着眼したものである。分析の結果、多様なファンクションを経験したクリエイターのいるチームはヒット作品を生みやすい一方、多様なジャンルを経験したクリエイターのいるチームはヒットを生み出しにくくなることが明らかとなった。当該研究成果は、2016年8月に行われたAcademy of Managementで発表され、組織論部門で優秀論文にノミネートされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2016年度の研究活動を通じた達成目標は次の三点であった。一つは、既に構築しているデータベースに新たなデータを追加し、さらに多角的な分析を可能にすることである。もう一つは、調査課題についての仮説を構築し、これらを統計的に検証することである。最後は、得られた研究成果を国際学会発表用の論文に仕上げること、国際ジャーナルに投稿することである。 当初計画していた目標に対し、若干の進捗の遅れが生じている。遅れている部分は主に分析用データベースの構築である。本研究の用いるデータは、主に国会図書館に所蔵されており、大量の複写作業を伴う。そこで、リサーチアシスタントを雇用し、資料のコピーはほぼ完了した。しかし、複写したデータの入力作業の委託が2016年度中に間に合わせることができなかった。そのため、当該作業は2017年度にも引き続き行う。二つ目の仮説構築、仮説検証作業については大きな進展があった。本研究の核をなす仮説検証作業を行い、概ね仮説通りの結果を得ることができたからである。もちろん、先述したデータを新たに追加した場合、仮説と異なる結果が得られる可能性も考えられる。2017年度も引き続き、頑強な結果を得るべく、分析を進めていく。最後の論文執筆については、先の実績にも示した通り、国際学会発表用の論文を作成し、査読審査に通過した。一方で、国際ジャーナルに投稿するまでにはいたらなかった。この点も2017年度の課題とする。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度の研究目標ならびにその推進方法は以下とする。まず、国会図書館において製本作業が完了していなかったがゆえに一部完了できなかった複写作業を終える。完了し次第、データ入力を専門業者に委託し、データベースを完成させる。当該作業は、入力データの確認作業を含め、所属期間の夏季休暇まで完了することを目標としている。次に、追加的な統計分析である。これまで分析を行ってきたデータベースに新たなデータを加えることで、新たな変数を作成する。これによりモデルをより精緻化し、より頑強な分析結果を得ることを目標とする。最後に、得られた分析結果をもとに論文執筆を行い、国際ジャーナルに投稿することを目標とする。現状では、投稿用論文として、早稲田大学経営管理研究科の入山章栄准教授とともに進めているクリエイターの個人内多様性と創造的パフォーマンスの関係に着眼した研究がある。当成果を所属機関の夏季休暇中に投稿することを目標とする。もう一つの投稿用論文は、先にも述べたネットワーク・コミュニティのダイナミクスとクリエイターの創造的パフォーマンスの関係に着眼した研究である。本研究は、2017年の8月に予定している国際学会での発表でコメントをもらい、その内容をもとに再度分析を行っていく。当該論文は、年末年始にジャーナルに投稿することを目標とする。 なお、筆者は、音楽産業をはじめとしたクリエイティブ産業の業界関係者へも関係構築を進めている。研究結果が実務においてどのように捉えられるのか、研究成果の還元、あるいは見逃している重要な論点を明らかにするためにも、関係者へのインタビュー調査を引き続き実施していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた使用額を次年度に一部繰越した理由は以下である。主な理由は、既に構築したデータベースを用いた分析に作業と、その結果をもとにした論文執筆作業に比重を置きすぎたあまり、予定した複写作業を行う時期が遅れたことである。そのため、専門業者へのデータ入力の委託が不能となってしまった。また、複写作業を早急にすすめるため、新たにリサーチアシスタントを雇用した。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年度の繰越金を含めた2017年度の使用計画は以下である。主な使用は、2016年度に完了できなかった専門業者へのデータ入力委託費である(60万円から70万円を予定)。また、一部完了できなかった国会図書館での複写費用にも用いる(1万から2万円を予定)。旅費については、既に発表が決定した米国アトランタで行われる77th Academy of Managementでの国際学会発表の渡航費に用いる(6泊8日で20万円)。国内で行われる学会にも参加予定である(2泊3日5万円)。その他、消耗品として書籍、インクトナー、印刷用紙に用いる(5万円を予定)。
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