前年度までの広範な定性・定量調査の結果を踏まえ、追加的に聞き取り調査と、公開のデータベースの購入と追加を行った。後者の公開の有料データベースでは、他産業で起こっている現実的な国際化のための子会社側の主体的活動と本社側の機構改革について広範なデータを補完することができた。国際化に関する既存研究では、佐々木(2007)が示したように、組織の分化のパターンは、階層間と職能間で起こることによって共通の認識が得られにくいことが分かっている。当然、これによって組織構造の企画や変革のあり方も影響を受けるから、追加的調査で産業間での相違を明らかにした。その際に、経営史的な視点を導入して各企業の社史のデータを加味した。こうした経営史学的な視座は、桑原(1990)に示されたように有用であるが、マーシュ・萬成(1985)以降、国際化の組織構造論においては、ほとんど蓄積がなかった。これらを平成28年度、29年度の定性研究と定量研究を統合研究とした。 平成30年度は、前年度までの遅れについて新たなコンセプトと新たなデータベースによってペースを取り戻すことができたと考えられる。とりわけ、最終年度においては、内的国際化(Inward Internationalization)という新しいコンセプトを掘り起こし、空間的拡張を前提としない内的国際化が知識と成果に与える影響を実証的に扱うことができた。多国籍企業論など既存の国際化研究では十分に扱われていなかった論点に光を当てることができたと考える。
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