本研究は、ミドルマネジャーや現場のビジネスパーソンが上司や他部門などの周囲から支援を獲得するためのボトムアップ型のコミュニケーション戦略である、イシューセリング(イシューの売り込み)行動に関する研究である。 本研究課題は調査対象をサイバーセキュリティに関する組織内の対応チームである、CSIRT(シーサート)を対象に行ったものである。調査設計に関しては、一部の調査に関しては先行研究が部下の行動のみに焦点を当てている一方、本研究は部下だけでなくイシューの受け手である上司・他部門の担当者に関しても調査を補完した調査設計を行った。また、サイバーセキュリティを対象とした調査については、サイバーセキュリティに関連する特有の現象とその他一般的に関連する支援の獲得に関する行動パターンについて調査の中で考察した。 コミュニケーション戦略に関する知見としては、定性的データの中で、支援の獲得について成果を挙げているミドルマネジャーは、相手の優先順位や組織内外の動向を明らかにするための情報収集やイシューの意味付けに関して重視している点が示された。また、多くのインタビュー事例において、部下側の戦略的意図と上司側の承認における意図にずれが生じている点も確認された。多くの事例において、部下の認識と上司の認識においてギャップを抱えたまま表面的な合意形成がされており、それが長期的な部下側の支援獲得行動においてネガティブに機能している可能性が示唆されている。 研究機関で収集されたデータに関しては、理論的にも更に考察を深めていく余地が十分あり、今後の課題として残されている。 また、本調査において得られたデータは、組織間コミュニティにおけるイノベーション創造プロセスなどに関する共同研究にも応用された。
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