研究課題/領域番号 |
16K17199
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
佐藤 哲也 早稲田大学, 理工学術院, 助手 (00772956)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ロジスティクス / サプライチェーン・マネジメント / 生産管理 / 多段階最適化 / モデル構築 / シミュレーション工学 / ビッグデータ |
研究実績の概要 |
近年の物流業界ではトラックドライバー不足が深刻な問題となっており、全ての荷物配送需要を満たすことが困難になりつつある。そのため、危惧される破綻を防ぐためのシステム構築・手法提案が強く求められている。そこで本研究では、製品の生産から出荷、配送に至る工程について、効率化・全体最適化を図るためのシステム・手法の提案を行う。特に従来それぞれ独立に効率化・最適化が図られてきた生産・梱包・出荷工程と出荷後の顧客までの配送工程について、事業者間の連携強化を通して全体最適化を図ることを目的とし、1. 配送センターの立地選定、2. 自動倉庫の規模決定・レイアウト設計、3. 配送センターの入出荷スケジューリングの3つの最適化問題を統合した多段階最適化モデルを構築するとともに、期待される効果を定量的に検討・評価する。これにより、近年問題となっている再配達比率の低減及び梱包数の集約・削減、配送事業者の負担軽減等が実現され、その結果、コストの削減にもつながると期待される。 平成29年度は、まずハフモデルに基づく顧客の購買行動モデルと配送ルート決定モデルからなる多段階複合モデルとして立地戦略モデルを提案し、その効果について遺伝的アルゴリズム (GA: Genetic Algorithm) を援用した近似解導出による評価を行った。そして、物流拠点内の梱包・出荷オペレーションについて、擬似制御変数 (PCV: Pseudo Control Variable) を用いた目標追跡法 (TCM: Target Chasing Method) による平準化・効率化手法を提案し、その効果についてシミュレーションによる評価を行った。 また、生産物流以外の業界においてもサプライチェーンの構築と改善が重要な課題であるため、本研究により得られた知見の他産業への移転についても、一部事例を対象に検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、1. 配送センターの立地選定、2. 自動倉庫の規模決定・レイアウト設計、3. 配送センターの入出荷スケジューリングの3つの最適化問題を統合した多段階最適化モデルを提案し、効率化の効果をシミュレーション解析により定量的に評価することを目的としている。 平成29年度は、計画に基づき、上記1.で述べた最適立地選定問題について、ハフモデルに基づく顧客の購買行動モデルと配送ルート決定モデルからなる多段階複合モデルとして立地戦略モデルを提案し、その効果について評価を行った。また、上記3.で述べた入出荷スケジューリングの最適化について、物流拠点内の梱包・出荷オペレーションを対象に平準化・効率化手法を提案し、その効果について評価を行った。これら研究成果は、国内外における学会講演及び論文を通し発表を行っている。 対象としている各段階の最適化問題はそれぞれがNP困難であり、特にその複合モデルにおいては、最適解の導出には膨大な計算時間を要する。そのため、平成28年度に導入・環境整備を行ったワークステーションを用いて計算の並列化・効率化を図るとともに、近似解法を導入することによって計算時間の短縮を図っている。 なお、実施計画では上記1.~3.全体からなる複合モデルの平成29年度中の構築を目指していたが、各階層における最適化モデルの効果が不明確となる問題が生じたため、前年度までに検討した事項も含め、各階層におけるモデルの発展・深化とその評価を行うことを優先した。また、提案モデルにおけるパラメータ決定へのビッグデータの利用可否について検討を行ったが、統計手法によりクラスタ毎の平均的傾向は概ね把握できるものの、個々の顧客の行動との対応が必ずしも一致しないため、継続検討としている。 上記のように計画からの変更が一部生じているが、全体としては概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は主に、物流拠点・配送センター内のオペレーションに着目し、これまでに提案・評価を行ってきた入荷・梱包・出荷のスケジューリングモデルについて発展・深化を行う計画である。本研究ではこれまで、構内ラインの稼働率向上、全投入ジョブの工程完了までの経過時間最短化、そしてJIT (Just-In-Time) の考えに基づく梱包後の出荷待ち時間最短化の3つの評価尺度において、それぞれ擬似制御変数を選択し目標追跡法による効率化手法を提案してきた。しかし、時にトレードオフ関係となるこれら評価尺度の同時最適化を目的とした場合、目標追跡法などの逐次効率化には限界があることが、これまでの検討から明らかとなった。そこで、各階層の評価尺度を変換・統一することで目的関数を単一化し、投入されるジョブ情報に基づき全体最適化を図るためのモデルを提案する。なお、本最適化問題もNP困難となるだけでなく、特にインターネット通信販売のようにリアルタイムに受注を行う事例においては、投入ジョブの情報も随時更新されるため、効率的運用を行うためには、膨大な計算が必要となると予測される。そのため、これまでの検討を踏まえ、遺伝的アルゴリズムを援用した近似解導出モデルとすることで、提案したモデルの導入効果を評価する計画とする。 なお、提案した各モデルのパラメータ決定へのビッグデータの利用の可否については、継続検討とする。また、本研究の発展として、生産物流業界以外へのサプライチェーン設計・改善技術の移転・応用についても、継続検討とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は、研究の進展により、当初計画よりも多い5件の国際学会発表を行った。そのうち、年度内最後の国際学会発表が2月にあり、この海外出張旅費精算の学内処理の確定に時間を要した。そのため、年度末の学内財務処理締切まで日本円における予算管理が概算でしかできず、結果として次年度使用額が発生した。 平成30年度は国際学会発表を含め数件の学会発表と論文投稿を計画しており、繰り越した予算についてはこれら研究成果発表のための費用に充当する計画である。
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