本研究の目的は,情報開示と企業内部の情報環境との相互的な影響,およびその結果,企業内の経営意思決定にどのような影響が生じるのかについて検討することである. 研究期間全体を通じて実施した研究成果の概要は,以下のとおりである. (1) 不確実性下の複占市場において,企業の私的情報が内生的に決まるような状況に焦点をあて,企業の情報獲得行動と強制的な情報開示との相互作用について分析した.分析の結果,強制的な情報開示が情報獲得に対する企業のインセンティブにどのような影響を与えるのかは,情報のタイプや競争のタイプといった要因に依存して異なりうることを明らかにした.(2) ライバル企業による新規参入の脅威が存在する状況下での,将来の生産計画に関する事前の情報開示(プレアナウンスメント)について理論的に分析した.分析の結果,ライバル企業の参入を阻止するため,あるいは参入を阻止できないとしても,自社の市場シェアを大きくするため,既存企業は,実際に選択する生産量よりも大きな水準のプレアナウンスメントをおこなうことを明らかにした.(3) 不確実性下の複占市場において,当該不確実性に関する情報を公的に開示する必要がある場合に,企業は情報システムをどのように設計するのか(どのようなバイアスをかけるインセンティブを有するのか)分析をおこない,直面する不確実性のタイプや競争のタイプに依存して,企業の選択するバイアスの程度が異なりうることを示した.(4) 情報システムの設計と企業内の業績評価・動機づけとの関係について,キャリア・コンサーンのモデルを応用して分析をおこなっている先行研究をサーベイした. 最終年度の成果としてはとくに,上記 (1) に関する海外ジャーナルに投稿中の論文について,レフリーとのやり取りのなかで論文の改訂・再投稿の作業を進めた.
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