研究課題
本研究の目的は、アメリカ合衆国において複数の集団が混在するエスニック・タウンの事例を詳細に分析することをとおして、集団間の文化的差異や社会的・政治的資源の格差が、いかに調整され、協働関係が形成されるのか、そのための社会的条件を析出することである。今年度は、前年度までに実施した(1)フィールドワークから得られたデータの分析と、(2)理論研究と先行研究の整理を前年度に継続して行った。(1)については、主にロサンゼルス・リトルトーキョー地区で収集したデータを対象に行った。まず、特定の集団のエスニックな遺産の保存・維持活動の歴史的展開について、関連するアクターの語りを分析した。それに加えて、異なる世代、異なるエスニック集団間の結びつきを重視する活動にも注目した。その活動の参与観察から得られたデータと、その活動をオーガナイズする組織の主要メンバーによるインタビュー・データの分析も行った。(2)についてはまず、前年度までに実施した理論研究を継続した。特にエスニシティに関する研究と異なるエスニック集団による協働と社会運動に関する研究の整理を行った。そうした理論研究に加えて今年度に注力したのは、社会学以外の領域において発表された先行研究の精読である。上記から今年度の成果としては、対象事例において一方で特定のエスニックな文化・歴史を維持する活動が展開されてきたと同時に、その活動の継続を支えるアクターたちは他方で汎エスニックなコミュニティ形成プロセスにおいても重要な役割を担ってきたことが明らかになった。次年度は、事例に関わるアクターたちへのインタビューを中心としたフォローアップを行いながら、研究の最終的なまとめを行う。
3: やや遅れている
今年度は、これまでのフィールドワークで収集したデータの分析と、理論研究ならびに先行研究の継続した整理という点では、計画どおりである。しかし、当初は今年度の後半に渡米し、当該事例の関係者を対象としたフォローアップ・インタビューと、コミュニティ・イベントを対象とした参与観察を行う予定であったが、様々な条件が揃わずに実施することができなかった。これについては、可能な限り条件を調整して次年度に行う予定である。
次年度は、今年度に実施できなかった部分も含めて以下のとおりに進める。まず、次年度に実施できなかった対象事例のフォローアップ・インタビューを行う。加えて、スケジュール上可能な限りにおいて、コミュニティ・イベントを対象とした参与観察も実施する。そのうえで、これまでの調査研究成果の最終的なまとめを行い、複数の異なるエスニック集団がいかに文化的差異や社会・政治的資源の格差を調整し、協働関係を構築するのかについて考察を加える。その成果を、学会報告や論文として発表する予定である。
今年度は妊娠・出産のために海外調査を実施することができなかったことが、当該助成金が発生した主な理由である。次年度は、海外調査に当該助成金を使用する計画である。具体的には、当該事例関係者を対象としたフォローアップ・インタビューと、事例に関するコミュニティ・イベントを対象とした参与観察である。加えて学会報告や論文などの成果発表にも使用する予定である。
すべて 2020
すべて 図書 (1件)