研究課題/領域番号 |
16K17229
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
萩原 優騎 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (20468565)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | レジリエンス / 地域社会 / 東日本大震災 / 復興 / BCP / 環境社会学 / 環境倫理学 / 科学技術社会論 |
研究実績の概要 |
初年度に当たり、当初の研究計画及び研究目的に従い、本研究のキーワードである「レジリエンス」という概念に関わる研究作業を中心に行った。この概念は、様々な領域で用いられているが、定義が曖昧な場合や、諸領域間での定義や文脈の違いが必ずしも十分に考慮に入れられていないこともある。また、社会がレジリエントであるということが何を意味するのか、社会にレジリエンスを求める言説が当該社会に対してどのような影響を及ぼしているのかということは、批判的な検討が必要である。以上のような問題意識に基づいて、レジリエンスに関わる諸領域の先行研究のうち、生態学や社会システムに関わるものを中心に精読し、その定義や文脈を確認した。あわせて、「レジリエンス」という概念が用いられている近年の事例として、東日本大震災発生以後の災害対策に関わる論考について、特に地震、津波、原発事故などを扱ったものに焦点を合わせて調査した。 上述の文献研究と並行して、レジリエンスに関わる取り組みの事例研究も進めた。第一に、地域に立脚しつつ、地域を越えたレジリエンスの発揮を試みる事例として、首都圏の生活協同組合によるBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)について、インタビュー調査を行った。生活協同組合連合会コープネット事業連合を訪問し、東日本大震災発生以後に展開されてきたBCP関連の取り組みの進捗状況、現状、今後の予定、解決が必要となる課題などについて尋ねた。第二に、震災からの復興との関連で、レジリエントな地域社会が構想されている事例として、宮城県仙台市や石巻市で展開されている、地元の特産品「仙台白菜」をシンボルとしたプロジェクトについて、現地調査を行った。生活協同組合連合会コープ東北サンネット事業連合、JAいしのまき、白菜の生産者、白菜を使った食育活動を展開している高校の関係者などを訪問した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献研究については、一定の成果が得られたと考える。第一に、「レジリエンス」という概念の基礎的な定義を確認するとともに、その周辺概念との違いや関連性を明確にすることができた。第二に、本研究においてレジリエンスに関わる研究の対象とする「地域社会」とは何かということについても、その定義や文脈に関わる論点を掘り下げることができた。第三に、「レジリエンス」、「地域社会」といったキーワードが、本研究に関連する先行研究において、どのような文脈で用いられているのかということや、そうした研究において必ずしも明らかにされていない点、批判的な再検討が行われるべき点、さらに深い検討がなされるべきと思われる点などを明らかにした。これらの作業により、今後の研究を進めていく上での基礎を固めることができた。 事例研究についても、当初の研究計画をおおよそ達成することができた。コープネット事業連合でのインタビューでは、本研究の開始前(2014年)の訪問時から今回の訪問時までに、どのような進展があったのか、どのような課題に直面しているのか、今後どのようにしてその解決を図ろうとしているのかといったことについて、具体的な情報を得ることができた。仙台白菜に関しても、前回の訪問時(2013年)以降の進捗状況を、確認することができた。仙台白菜という共通のシンボルを題材に、多様な行動主体が地域の復興に関わるプロジェクトを展開している。これらの活動やその背景にある認識の共通性や違い、今後の可能性や課題について、現地の見学やインタビューを通じて確認した。そうした成果の公表は年度内に間に合わなかったため、新年度にその作業を継続する。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究成果に基づいて今後の研究を進めるに当たり、主に二つの課題に取り組む必要があると考える。第一に、文献調査の追加である。「レジリエンス」と「地域社会」という本研究のキーワードについて初年度に研究を進めた結果、それらが「安全」や「安心」といった概念とどのような関係にあるのかということを掘り下げる必要があるとの認識に至った。「安全」や「安心」は、東日本大震災の発生以前から、日本社会の様々な場面で多く用いられてきた概念である。東日本大震災の経験を通じて、従来の「安全」や「安心」に関わる取り組みに問題があったことが明らかになるとともに、一方で「レジリエントな地域社会」ということが掲げられた。こうした状況で、地域社会のレジリエンスに関する考察の中に、「安全」や「安心」についての議論をどのように位置づけるべきなのかということを明確にしなければならないと思われる。この作業に必要となる文献の調査を行う。 第二に、事例研究については、当初の研究計画に記した予定に従い、さらに展開する。具体的には、初年度に調査したコープネット事業連合によるBCPに関して、その構築の際に参照したとされる、東日本大震災の被災地でもある、みやぎ生活協同組合の事例を調べる必要があると考える。現地を訪問し、関係者へのインタビューや取り組み事例の見学等を予定している。第二に、仙台白菜に関わる各種のプロジェクトから派生した各種の発展事例についても、確認しておく必要があると考える。昨年度はそこまで手が回らなかったため、今年度中に追加の現地見学やインタビューを行いたい。以上のような事例研究により、地域社会のレジリエンスに関わる理論研究の妥当性を検証するとともに、そのさらなる進展や、本研究を通じた地域での取り組みへの貢献の可能性を探りたい。
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