本研究の目的は、農山村における空き家というモノをめぐる諸アクターの実践や交渉に注目して、空き家を維持・活用するための諸アクター間の関係性を明らかにし、持続可能な地域社会の再生産システムの方向性を示していくことである。 最終年度である今年度は、目的を達成するために、和歌山県高野町と宮崎県北部の農山村地域でのフィールドワークと追加の資料調査、収集したデータのとりまとめを実施した。 (1)高野町では観光産業に力を入れ、町外への知名度が高まるなかで、移住者が増加している。その一方で、産業構造や地域住民のライフスタイルの変化のなかで、従来の地域の自治の仕組みを維持することは難しくなっている。(2)宮崎県の北部地域では、空き家対策と子育て支援の充実を図ることで、移住者が増加している。ただし、地域の社会組織や歴史・文化を次世代に受け継ぐ仕組みを整備することが課題である。これらの調査データと、これまでに収集した関連する研究文献や統計資料などのデータを組み合わせて分析した結果として、以下のことが明らかになった。 いずれの地域でも、空き家問題は、居住環境(産業、交通、教育、福祉、自然など)をめぐる問題と密接に連動しており、住宅(建築)に関する専門家や関係者のみで維持・活用を進めることは難しい状況がある。ゆえに、地域住民、移住者、行政のみならず広く居住環境の問題に対応できるアクターと連携し、維持・活用の動きを進めることが必要である。また、地域に継続して居住するためには、地域における人や自然とのつながりの重要性を理解すること、それを次世代以降に継承していくための場と教育の仕組みを整備することが必要である。以上のように、農山村地域においては、空き家というモノを維持・活用するための取り組みが、結果的に地域社会における自然環境や諸アクターとの関係性を再生産することにつながっていく。
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