本研究は、名古屋駅周辺における「リニア開発主義」の構造と主体を考察する社会学的研究である。2027年のリニア新幹線開通を契機として、経済成長を目指す政治経済システムとそのイデオロギーを「リニア開発主義」と捉える(林 2020)。最終年度となる2019年度は、主に下記の成果をあげた。 (1)研究会の立ち上げ:筆者は、木田勇輔氏(椙山女学園大学)・植田剛史氏(愛知大学)と共に「『リニア開発主義』研究会」を立ち上げた。10回の研究会のなかで、環境社会学の青木聡子氏(名古屋大学)、エスニシティ論の山本かほり氏(愛知県立大学)、ホームレス支援研究の山田壮志郎氏(日本福祉大学)などに研究報告を依頼し、名古屋駅周辺の空間的再編を捉える社会学的パースペクティブの構築を図ってきた。 (2)学会発表・論文掲載:2019年9月の日本都市社会学会では、筆者と木田氏が「リニア開発主義の構造と主体(1)(2)」を研究発表し、知見を整理した。その後、筆者は日本都市社会学会年報に「リニア開発主義の構造と主体――名古屋駅西地区におけるリノベーション事業と草の根の新自由主義」を投稿し、掲載が決定している。この論文では、駅西のリノベーション事業の事例分析にとどまらず、「リニア開発主義」「草の根の新自由主義」「新しい都市社会運動」という新たな社会学的概念を提示した。なお、アウトリーチ活動として、「エキニシノミライ」という報告書を発刊した。 (3)科研費採択:さらに、基盤研究(C)に研究代表者として、「リニア開発主義の構造と主体――名古屋駅周辺の再編をめぐる開発体制の検証」を申請し、採択された。今後は、聞取り調査、質問紙調査、資料調査により、リニア中央新幹線という21世紀の国家プロジェクトにおいて、都市空間をダイナミックに変動させる「開発」なるものの新たな論理が、いかに生成しつつあるかを明らかにする。
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