研究課題/領域番号 |
16K17244
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研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
森久 聡 京都女子大学, 現代社会学部, 准教授 (20736649)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 社会層 / まちづくり / 観光開発 / 地域活性化 / 年表 / 主体連関図 |
研究実績の概要 |
平成30年度は鞆の浦地区で計画されている港湾整備事業をめぐる地域紛争を事例に,平成28~29年度の作業内容を継続して(1)社会層に応じた聞き取り調査の実施と(2)文書資料の収集と年表作成・主体連関図の再構成を行った。 (1)については,鞆の浦に存続している多様な社会層の全体像を把握することを主要な課題とし,平成28年度に実施した社会層の再検討を踏まえた聞き取り調査を実施した。平成30年度は再設定された社会層の属する典型的な人物に対して聞き取り調査を継続した。また市民レベルでのまちづくりの取り組みにおいては,鞆港保存問題から新たなステージに移行しつつある兆候として,これまで調査対象とならなかった社会層に対して聞き取り調査を実施できた。加えて,並行して行政担当部局への聞き取り調査も実施した。一連の聞き取り調査の内容から,埋め立て・架橋計画の賛否と世界遺産化運動,観光地化が進む鞆の浦地区の将来像について,鞆の浦住民関係者と行政担当部局との認識が一致していないことが昨年度よりも高い精度で確認できた。またこの認識の不一致は埋め立て・架橋計画をめぐる意見対立による相互不信の結果である結論の裏付けも進んだ。さらに行政による地域政策(都市計画,観光,歴史的遺産の保存など)のズレも見えてきた。 (2)については,昨年度より取り組んだ,鞆の浦の歴史を年表形式に編纂した基礎資料の作成を継続した。また同様の手法で,地元の地方新聞・全国紙および行政資料,行政訴訟の裁判資料を用いて,埋め立て・架橋計画をめぐる住民論争の経緯を主体別の年表形式に編纂した。さらに鞆の浦のまちづくりに関する文書資料を収集し,データベース化にむけた基礎的な作業を継続した。以上の作業を踏まえて,鞆の浦のまちづくりをめぐる主体連関図を再構成し,図の精度の向上を図った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では,(1)社会層に応じた聞き取り調査の実施,(2)文書資料の分析と年表作成,(3)裁判資料のテキスト分析を挙げていたが,(2)年表作成作業に想定以上に時間がかかり,裁判資料のテキスト分析まで至らなかった。しかし(1)では新たな地域活性化の動きを捉えるなど,想定以上の成果を得ることができた。また,各年度ごとに計3冊の調査報告書を刊行できた他,3年間の年表作成作業をまとめた年表を1冊報告書として刊行した。そして今後も現地調査を継続していける関係を維持できた。したがって,研究課題の進捗状況としては,おおむね順調に進展していると言って良いだろう。
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今後の研究の推進方策 |
今後も継続して聞き取り調査を実施するとともに新たに調査対象の発掘を行い,より多様で重層的な地域住民の認識を解明していく。さらに他都市の類似事例との比較研究へと展開させ,本研究における知見の普遍的な側面や法則の発見に努め,地域開発とローカル・ポリティクスの社会学的な理論の構築へと進んでいきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査資料の整理作業が年度末まで遅れたため,文房具や機材の購入手続きが年度内に完了できなかったため。
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